中国の習近平国家主席が、北京市でロシアのラブロフ外相と会談を行ったのは4月9日のこと。両国は国交樹立から今年で75年。会談の中では両国間の密接な交流継続と安定した前向きな関係の発展について、両国間での同意があったと伝えられている。
全国紙国際部記者が語る。
「ラブロフ外相は同日、中国外交トップの王毅外相とも会談を行い、その後の共同会見で、『同盟を組まず、対抗せず、第三者に向けず、という原則を堅持する』『協力の中で広く行き渡る利益と、ウィンウィンを追求する』などといった『5つの終始一貫』が必要だとする王氏に対し、ラブロフ氏も、ロシア外交の優先事項は対中関係を全面的に確かなものにすることだとして、プーチン大統領の再選により両国関係の連続性が保証されたと述べています。ただ、中国情報筋によれば現在、習主席がロシアで最も信頼しているのは、プーチン氏ではなくミシュスチン首相のほうで、その証拠に両者は昨年3回も会談している。いかに隣国の首相とはいえ、習主席が同じ相手と1年に3回も会談することは異例のこと。そんなことから、ミシュスチン氏の“ポスト・プーチン説”が再浮上しているんです」
3月のロシア大統領選で圧勝したプーチン氏は、5月7日の就任式を経て5期目に入ることになるが、ロシアメディアによればミシュスチン首相の続投はほぼ確実で、内閣改造も小幅なものになる予定と伝えている。
習主席がミシュスチン首相を高く評価する理由の一つが、同氏の戦時下における経済立て直しの手腕だ。同氏は無名ながら20年にプーチン氏によって首相に抜擢され、22年のウクライナ侵攻後は戦時経済の運営委員会委員長も兼務。軍需産業と銀行とをうまくリンクさせながらマクロ経済好転に大いに貢献し、ロシア下院の年次経済報告によれば、今年2月の製造業成長率を13.5%アップさせるなど、制裁下にあるロシア経済をV字回復させた立役者でもある。
「しかも、ウクライナ侵攻に対して一切沈黙してきたことも、表向き仲裁する立場をとっている中国としては具合がいい。ゆえに中国側は今後のミシュスチン政権に大きな期待を寄せているとも伝えられています」(同)
近年の世論調査でも、ミシュスチン首相の支持率は70%台と抜群に高く、ロシアでは首相が憲政上ナンバー2になるため、仮に大統領が体調不良などで職務執行不能になった場合、大統領代行に就任し、3カ月後には大統領選挙を統括することになる。
「つまり、プーチン氏にもしものことがあれば、ミシュスチン氏が大統領になる、という可能性もあるということ。ただし、長期での独裁経験を目指すプーチン氏は後継者選びに極めて消極的とされ、意に沿わなければ鶴の一声で即更迭、ということもあり得ますからね。正直、こればかりは蓋を開けるまでわからないといったところ」(同)
昨年にはウクライナのテレビ局「24TV」も、「習近平指導部はミシュスチンを敬愛し、プーチンの後継者になることを望んでいるが、側近すら信用しないプーチンは後継者の登場を許さないだろう」と報じ、話題になったこともあるが…。出る杭は打たれる。「習主席お気に入りの首相」を独裁者がどう操っていくのかを、中国側は注視している。
(灯倫太郎)