佐藤治彦「儲かる“マネー”駆け込み寺」時間がかかる災害時の仮設住宅はやめて大量の移動式住宅を国が準備するべき!

 能登半島地震から2カ月経った3月2日の報道に驚いた。石川県の馳浩知事が、被災者が住む仮設住宅の建築を夏までに完成させるとインタビューに答えていたからだ。およそ30年前の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災といった地震や集中豪雨など自然災害のたびに、多くの人が近くの体育館などに身を寄せた。段ボールなどで間仕切りされた冷たい床に布団を敷いて雑魚寝している様子がニュースでも流される。

 大きな自然災害で生活がぶち壊しになった時、公的な支援では、生活再建はほとんど当てにできない。家屋などは個人の私有財産だからだ。

 しかし、それではあんまりだということで、大震災を受けて政治が動き、制度ができ、わずかだが前進した。

 それは「被災者生活再建支援制度」といって、基礎支援金と加算支援金の合計が支払われる。基礎支援金は住宅の被害程度に応じて支給され、世帯人数が複数の場合、全壊などで100万円、大規模半壊で50万円。そして加算支援金は、住宅の再建方法に応じて支給されるもので、建築、購入する場合は200万円、補修は100万円、貸借は50万円となっている。

 つまり、最大300万円というわけだ。

 さらに全国から寄せられる義援金、地方独自で設けられている制度などを合わせて、運がよくてもせいぜい400万円程度だろう。

 国の役割は道路や公共施設の復旧が主なものであり、国の援助で個人の生活を再建することはしない。大災害が起きた直後の緊急時に一定期間、国民を保護することは政治の最も大切な役割のはずだ。それが今はまるでできていない。次の災害にも備えていない。

 何しろ、命からがら避難してきた多くの被災者をプライバシーのない体育館のようなところで、時に何カ月も雑魚寝させ、風呂もトイレも制限させる生活を強いているのが現状だ。それでよしとしているところもある。それに耐え切れず、小さな自家用車の中で寝泊まりをする人も多い。

 そのため、熊本の地震の時などは、避難生活の苦難に耐えられず、災害関連死で命を落とした方が直接的な地震の被災者より4倍以上も多かった。

 台風が過ぎ去るまでの一晩とか、地域全体が大きな被害を受けた後の1週間ほどは体育館などに身を寄せることは致し方ない。しかし、時に数カ月も続くようでは、政治は落第だと思うし、今の被災者対策のお金の使い方にも疑問がある。

 私は仮設住宅を災害のたびに建てて、使用後は壊して廃棄するというのも、やめた方がいいと考えている。仮設住宅は1世帯の建設に300万円くらいかかる。それも入居できるのは被害を受けてから数カ月経ってからということが多い。高くて遅い。使用後には大量の廃棄物にもなる。

 それよりも、車で簡単に動かせる移動式住宅のトレーラーハウスを国が数千棟分買い上げておいて、災害に向け準備しておけばいいのに、と思っている。

 通常時は全国で観光用の宿泊施設として使い、緊急時には被災地近くに移動させて被災住宅として使う。終われば、また観光用に使う。トレーラーハウスには生活に最低必要な家電製品や家具に加えトイレや風呂もあるので、移動させて設置できればすぐに生活の再建を始めることができる。

 何しろ欧米では、そのまま自宅として利用している人が大勢いる。また、自宅のある地域からできるだけ離れたくないという被災者の気持ちにも寄り添うことになる。

 民間にもトレーラーハウスを用いた宿泊施設を奨励し、緊急時に協力する法人については税金の減免をすればいい。お金もかからず、必要な援助を必要な時にすぐに行える。

 トレーラーハウスでは、政治家は裏金を作れないかもしれないが、人口減少の進む国にとって大切な日本国民の命を守るために、ぜひ、トレーラーハウスの導入を考えてもらいたい。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。新刊「つみたてよりも個別株! 新NISA この10銘柄を買いなさい!」(扶桑社)が発売中。

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