中国の全国人民代表大会(全人代)が3月11日に閉幕した。
まず言っておくが、この全人代について日本のメディアは「日本の国会に相当」と解説するが、実際は、あらかじめ党中央が決めた政策を党が選んだ全人代委員が承認するだけの“儀式”に過ぎない。民主主義体制の下で選ばれた国会とは全く異なるものだ。
そして今回の全人代は、例年にもまして、不都合な真実を隠蔽する方針が見え隠れしている。
24年の経済成長の見直しについて、李強首相は「実質5%前後」とした。不動産バブルが破綻している中で「5%前後」が可能なのか、その根拠は示されなかった。これは、もはや経済面の敗北を宣言しているに等しい。
だが、このレベルの“虚偽報告”など、中国政府にとって大した問題ではない。中国政府がいま最も苦悩しているのは、中東のイラン。近年、イランへの投資を急増させているが、そのイランの対応がジリ貧の中国経済にトドメを刺しかねないというのだ。
イランは、中国が構想する「一帯一路」をなす海のシルクロードの最重要国家である。両国の関係は2000年にも及び、近代国家となってからも1971年に外交関係を結んで以来、友好関係が続いている。特に習近平政府が「一帯一路」を掲げてからは米国の中近東外交の間隙を突く形で親交を深め、「包括的協力協定」を締結した。これで、習近平政府は中東圏に確固たる足場を築いた。
ところが一昨年来、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海を航行する商業船舶への攻撃を繰り返し、中国の貿易にも甚大な損害をもたらしているのだ。
米国との関係悪化で輸出量が減少したことで、中国は欧州との貿易に活路を向けていた。ところが、船舶テロによりヨーロッパと中国を最短距離で結ぶスエズ運河の運行が難しくなり、時間と経費が余分にかかるアフリカ喜望峰ルートへの迂回を余儀なくされている。
とくに、中国が国を挙げてセールスしていたEV(電気自動車)への影響が大きい。EVは不動産破綻した中国経済を支える切り札であり、その輸出の3分の1は欧州向けだからだ。だが、低価格で人気だった中国のEVもアフリカ周りのコストを上乗せされると競争力を失うことになる。
中国政府高官は今年に入って度々、エジプト、イラン、サウジアラビアなどを訪問し、「紅海の状況が悪化しており、中国政府は懸念している」と何度も警告しているが、イラン政府は気にする様子もない。
これまで中国は、「中東における存在感が高まっている。中東は中国を必要としている」としきりに宣伝してきたが、米国に取って代わるような影響力をもつには至っていないことが、これで明らかになった。
(団勇人・ジャーナリスト)