中国における電気自動車(EV)を巡る状況がとんでもないことになっているようだ。
18日の「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開幕式で、「世界が良くなれば中国が良くなり、中国が良くなれば世界はさらに良くなる」と、自信満々に演説した中国の習近平国家主席。「一帯一路」構想を掲げる同氏は、中国経済の柱を「不動産」と「自動車」に据えて経済を発展させてきた。
だが不動産開発では、企業が巨額の資金を借り入れてマンションを建て、完成前に売却した資金を再投資してさらに開発することで不動産業界は一気に肥大化したが、その循環がストップすると資金難に陥ったデベロッパーの倒産が相次ぎ、建築途中で放置された幽霊マンションが急増。マンションの建設前に売買契約を交わし、頭金を支払った買い主らが、住宅ローンを支払いながら未完成の建物に住むという、歪な現象が各地で生まれている。
そんな不動産開発とともに、習政権が推し進めてきたもうひとつの産業である「EV」にも、大きな陰りが見え始めている。
「中国では習主席の肝いりで、ガソリン車からEVへの転換を急速に進めた結果、2015年ごろから電気自動車業界が急成長しました。充電スタンドの設置数も数十倍に増え、一部都市では、早い段階から自動運転のEVバスを導入。さらにEV車を使ったカーシェア会社なども乱立しました。ところが、ここへきて一部の都市では充電料金が2倍に高騰。しかも、購入時の補助金もカットされ、結果としては大幅な値上がりということになってしまったんです」(中国経済に詳しいジャーナリスト)
それに追い打ちをかけたのが、新型コロナウィルスによる感染拡大だった。
「ゼロコロナ政策のため家から出られなくなった人々は車に乗る機会がなくなり、当然のごとくカーシェアの利用者も激減。結果、その3年の間にカーシェアリング会社がどんどん潰れ、今年4月までに約2400社が廃業したとの報道もあります。そこで使用されていたEV車が草むらなどの空き地にそのまま放置され、さながら『EVの墓場』のようだとして問題になっているのです」(同)
つまり、ガソリン代が高騰する中、料金の安さが魅力だった充電代が突然高騰、購入時の補助金もカットされ、それにコロナが加わったことで行き場を失ったEVが大量廃棄され、いたるところに“墓場”を生み出しているというわけである。
「ガソリン車からEVへの転換を急速に推し進めたことで、中国の国内における新車販売数はここ5年で連続減少。つまり、もはや国内にはEVが行き届いてしまったというわけです。そのため、中国では国をあげてEVの輸出に力を注いでおり、2023年上半期は世界のEV車販売数で、アメリカのテスラを抜き中国のBYDが1位になった。ただ、一部報道によれば、EUへの中国製EV車の輸出には大幅なダンピング疑惑があることから、調査に乗り出す動きもあるようですから、今後の推移が気になるところです」(同)
米国を抜いて世界一の経済大国を目指す習近平にとっては、数万台の「EVの墓場」など取るに足らないものなのかもしれないが。
(灯倫太郎)