昨年12月29日にお笑いタレントの坂田利夫(享年82)が、そして今年1月4日には写真家の篠山紀信氏(享年83)が逝去した。どちらも死因は「老衰」である。今や日本人の死因第3位になるまで急増している「老衰」は、本当に“憧れの死因”なのだろうか―。
昨年6月、厚生労働省が「令和4年(2022年)人口動態統計月報年計(概数)」を発表した。それによると、死因の第1位は悪性腫瘍、つまりがんで、第2位が心疾患、そして第3位は老衰だ。老衰の割合は死因全体の11.4%で17万9529人。00年の2万1213人と比較すると約8.5倍に増えていることになる。
その理由について、老年医学を専門とする医学博士の板倉弘重氏はこう話す。
「病院で亡くなった場合、医師が詳しい検査をして病名がつき、診断書を書きますが、例えば特別養護施設などに入所中に亡くなった場合は、そこまで詳しく検査をしないので、基礎疾患などがなければ『老衰』と書くことがあります。つまり、施設に入所する方が増えたことと比例して『老衰』という死因が増えたとも言えます。自宅で亡くなった場合も該当することが多いですね」
確かに近年、「老衰」で亡くなった有名人を振り返ると、坂田利夫は高齢者施設で、脚本家の山田太一氏(23年11月、享年89)や俳優の田中邦衛(21年3月、享年88)、高島忠夫(19年6月、享年88)などは自宅で最期を迎えている。
そもそも「老衰」の定義はいかなるものなのか。板倉氏が続ける。
「実は、診断書に書く際の定義はあまりはっきりしないんです。心臓や脳、特定の臓器などに異常を発見した場合を除いて、はっきりした原因がわからない場合に『老衰』と書いたりしますが、ではそれは『何歳以上から』といった条件があるのか? そうしたこともバラつきがあります。ひとつ言えるのは、体の機能が全体的に徐々に落ちていく状態を経て亡くなる、ということでしょうか」
身体機能が加齢によって落ちていく―すなわち老化。“ピンピンコロリ”の突然死とは異なり、わかりやすい前兆があるという。
皮膚が乾燥し、筋力が衰え歩けなくなり、臓器の機能が低下して食事をとることもままならなくなる。そして呼吸機能が低下して、心臓が動かなくなり、そのまま死に至るのだ。
そうした老化の速度は個人差があり、だからこそ「70代で老衰で亡くなる人もいれば、100歳で老衰の人もいる」(板倉氏)というわけだ。
実際、昨年6月、落語家の古今亭八朝が71歳の若さで死去し、死因が「老衰」だと報じられた際は、ネット上で「老衰にも若年性がある?」「同世代だから気になる」など、決して“憧れの死因”とは言えない動揺の声が多く聞かれたものである。
(つづく)