歴史的な下落に陥っていた中国の株価が「国家隊」と呼ばれる政府系金融機関による買い支えで下げ止まりの様相を見せている。
中国を代表する上海総合指数は昨年12月、国の経済政策の大方針を決める「中央経済工作会議」で景気刺激策が示されず期待外れに終わったことで、下限とされた3000ポイントを割り、坂を転がるように下落が始まった。
このまま株価が下がり続ければ、中国経済は低迷の悪循環に突入するばかりか恐慌を招くとの危機感から、中国人民銀行は市中にお金が出回るよう、0.5%の預金準備率の引き下げを断行。また中国証券監督管理委員会は、禁じ手である「空売り規制」を強化し、さらには証券行政トップである同委員会主席を更迭するなど、なりふり構わぬ株価対策を打ち出してきた。
こうした強引な株価対策が、2月に入ってから効果が出始めているわけだ。
だが、これは一時しのぎの「麻薬」にすぎない。中国株の下落は2021年に中国を代表する不動産会社の恒大集団が債権不払いに陥ったことから始まっており、政府は経済構造の問題に手を付けることなく、株価だけを支えようとしてきたからだ。
そもそも中国の不動産開発は、共産党が国民に豊かさを実感させる狙いで政府が民間をリードして“不動産神話”を作り上げてきた。そのため、中国経済は不動産業界がGDPの3分の1を占めるという特殊な構造が続いた。しかも、地方政府は土地の利用権を開発業者に売って財政を確保し、土地を得た開発業者は整地もしないままマンション建設計画を組み、設計段階から支払いがスタートする「先行販売ローン」という商習慣が一般的となって定着している。
つまり、恒大集団の「不良債権問題」が表面化したのは、こうした不動産に過度に偏った中国経済の特殊性に市場が警鍾を鳴らしたと言うこともできる。ところが中国政府は、市場が発するアラームを「買い増し」や「空売り禁止」で捻じ曲げ、無力化しようとしているのである。
当面、株価は底を打つ形となるだろう。しかし、投資家が正常な機能を失った上海市場に愛想をつかし、離れていくのは否定できない。
中国政府は、“市場の偽りの平穏”によって不良債権処理を先送りし、最も重要な「経済構造改革」を引き延ばすことになった。
中国経済は、さらなる下落の道をたどることとなるだろう。
(団勇人・ジャーナリスト)