なでしこの北朝鮮戦「平壌開催」が白紙に…緊迫する“南北有事”「今は何が起こるかわからない」

 有事を想定した、緊急避難的措置なのか…。

 日本サッカー協会は、今月24日に北朝鮮と平壌で行う予定だった、パリ五輪アジア最終予選第1戦の開催地が変更されると発表した。記者会見した佐々木則夫女子委員長は「AFC(アジア・サッカー連盟)から北朝鮮に対し、中立地を会場とする提案の通達があった」と説明したが、一部には南北間で起こりうる“万が一”を想定した避難策という見方もあり、突然の開催地変更に選手やファン、関係者の間に不安が広がっているようだ。

 たしかに、このところの北朝鮮の過激さは目に余る。全国紙の国際部記者が解説する。

「北朝鮮は昨年から韓国を『敵国』と見なすと明確に表明。18年の南北軍事合意に基づいて停止していた全ての軍事措置を再開する方針も明らかにしました。さらに金正恩総書記は今年1月、韓国との平和統一路線を放棄し、南北協力事業を全面的に撤廃する方針を決めると、実際に2月の最高人民会議で、南北経済協力に関する合意を全て破棄すると全員一致で決議。つまり今後は、南北間の敵対ムードがより高まることは必至で、そんなさなかに何が起こるかわからない場所で試合などできるはずがない、というAFCの判断だったとおもわれます」

 韓国国営放送KBSのインタビューに答えた尹錫悦大統領は、北朝鮮の政策転換を「極めて大きな変化だと受け止めている。ただ、変わらないのは北が70年以上に渡りわれわれを共産主義者に変えようとしてきたことであり、その間に通常兵器では不十分だと認識して核開発を進めたことだ」として、金総書記の頭の中を理解するのは困難だと改めて突き放した。

「一方で尹氏は、北朝鮮に対し強硬姿勢で臨む一方、さまざまなチャンネルを使って金氏との首脳会談実現を模索してきたことも事実で、いまも同国への経済支援に前向きな姿勢を示しています。とはいえ、中国以上にロシアとの協力関係が強固になりつつある北朝鮮としては、もはや“天敵”米国と手を結ぶ韓国に気を遣う必要がなくなった。金総書記は今後も、飢える国民を犠牲にしてでも、麻薬やサイバー犯罪などありとあらゆる汚れ仕事で獲得した外貨をミサイルや核開発に充てるはずです。とはいえ、正恩氏の父・金正日や祖父・金日成時代から『祖国統一は悲願であり、民族の至上課題だ』と植え付けられてきた国民は、この“決議”をどう捉えるのか。いわば建国以来のスローガンを降ろすことになるわけですから、国内でも波紋が広がることは間違いないでしょう」(同)

 祖父や父の遺志を覆し、憲法改正してまで強行した「統一放棄」の余波は当分続きそうだ。

(灯倫太郎)

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