中国が「世界一幸せな国」との国境で大規模開発!「静かなる侵略」の手口とは

 国連が2012年から毎年発表している「世界幸福度ランキング」で、発展途上国ながら2013年には世界150以上の国と地域の中で8位を獲得。一躍“世界一幸せな国”としてその名を知らしめたのが南アジアにある人口80万人の国、ブータンだ。

 現在はSNSの普及による情報流入で、国民が感じる人生の自由度や他者への寛容さ、さらに社会保障制度のあり方についての国民の考え方が変化したこともあり、ランキング外になったものの、自然に囲まれたのどかな国といったイメージは変わらないだろう。

 ところがそんなブータンに対し、じわじわと忍び寄る国がある。それが、隣国の中国だ。

 中国とブータンはおよそ500㎞の国境を接しているが、中国と国交を結んでいないブータンは40年に渡り、国境画定のため中国と粘り強く交渉を続けてきた。だが、その一方で中国は、国境地帯である「係争地」に入植地を建設するなど、領土や領海をめぐる毎度おなじみの強引なやり方で既成事実を積み上げてきた。

 そんな中、米民間衛星画像会社「マクサー・テクノロジーズ」が、両国の国境係争地域で中国が居住区建設のための大規模工事を行っているとみられる衛星写真を公開。これを15日付のニューズウィークが伝え、波紋が広がっている。

「中国は近年、ブータン北部の2カ所の係争地域への入植を急ピッチで進めているとされてきましたが、今回、衛星により撮影されたのは、ブータンの辺境にあるジャカラング渓谷で行われている大規模な建設工事の様子。写真を見る限り集落は129棟、別の集落でも62棟の建物が確認されています。写真だけなので現時点では、ブータンが中国に土地を譲り渡したのか、中国が勝手に建設を進め、既成事実化しようとしたのかはわかりませんが、はっきりしているのは、そこが明らかに居住区であることと、すでに相当数の中国人居住者がいるであろうということ。つまり、このまま建設が進めば、大きな“中国人の街”が誕生する可能性があります」(中国の領土問題に詳しいジャーナリスト)

 ブータンが中国と接しているのは北側だけで、残る東南西の三方を囲う形で隣接するのは、中国の天敵であるインドだが、となればこの状況はインドとしても頭の痛い問題だろう。

「もちろんインドとしても、これ以上ブータン北部国境の“中国化”が進めば、自国にも影響が及ぶ可能性があるため、両国の動向を注視しているはずです。加えて、ブータンの外交基本方針は非同盟中立政策、つまり国連安保理事会理事国とは関係を持たないというスタンスにあるため、対米関係を含めた外交問題はこれまでインドがそのパイプ役を担ってきました。なので、今後もインドがブータンを庇護する立場であることは間違いありません。そうなると、中国がこれ以上、強引な隣国開発を進めるようであればインドが動かざるを得なくなるでしょうね」(同)

 いずれにせよブータンは、軍事力、経済力、外交力すべてにおいて、自国をはるかに上回る大国・中国と対峙していかなければならない。

(灯倫太郎)

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