中国が「小中学生の宿題禁止・塾規制」の”御触れ”を出したワケ

 およそ1カ月前の7月1日に100周年を迎えた中国共産党。習近平・国家主席いわく「新たな発展段階」に入ったという中国では、20年に第13次五カ年計画で「小康(ある程度豊かな社会)の全面的完成」を達成して100年を終え、次の100年のスタートとなる第14次五カ年計画で「持続的・健全な成長を目指す」といささかファジーな目標を掲げていたが、その「持続的・健全な成長」の実現ということなのだろうか。なぜか小中学生の「宿題」と「塾通い」が規制されることになった。

「7月24日に中国共産党と国務院が『義務教育段階における子供たちの学習負担と学外研修負担を一層軽減するための意見』というお達しが出されたのですが、そこには①小1・2学生への書面の宿題は禁止、②小3〜6学生の宿題は60分以内で中学生は90分以内、③塾は新設不可で企業としての上場も不可というもので、中国共産党の意見なので、実質、国が厳格な規制を敷いたということです。規制は他にも、『宿題よりも睡眠優先』『オンライン補講は目のことを考えて90分以内』『休み時間は10分以上空ける』『最後は21時まで』というものまであって事細かいものでした」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 理由の1つは少子化対策だ。長く続いた1人っ子政策で中国では少子高齢化が急速に進みつつある。そこに急速な近代化が加わって、いきなり生活は先進国化し、日本や他の先進国が抱える出生率の低い社会が実現してしまった。ところが中国は「科挙」が有名なように、超学歴社会。毎年、「高考」と呼ばれる大学統一試験を1000万人以上が受験するが、頂点の1つである北京大学に入学できるのは3000人程度とあって、となれば、自然と親が子供にかける教育費は高騰する。一部の富裕層を除けば、特に中産階級の家庭では家計に教育費が占める比率がバカ高くなっているという現実は中国も同じ、いや、もっと熾烈なのだ。

 ということはつまり、教育費の高騰に国がブレーキをかければ教育における格差社会も是正され、特に中間層の不満は治まる。いきなり「宿題」や「塾通い」の禁止に踏み切るというところが、いかにも中国らしい何ともアレなわけだが、とにもかくにも五カ年計画における「持続的・健全な成長」に適うというものだ。

 ただそうなると旨味を失うのは関連産業と投資家だ。

「『意見』が出された直後には中国の大手教育グループ2社の株価が約45%も下落し、特に学習塾部門はグループから切り離すしかないのではないかと見られています。加えて、こうした規制の動きは教育のみならず、ユーザー情報の保護が課されるITや、住宅価格が庶民の手の届かない域に達している不動産、やはり個人情報保護の観点から配車サービスにも及んでいるので、例えばネット大手のテンセントやアリババ、配車大手でアプリの提供を中止させられたディディなどが大きく株価を下げました」(前出・ジャーナリスト)

 となれば投資家とその資金は中国市場から逃げ出す。27日にはその影響は為替にまで及び、中華人民元は3カ月ぶりの安値を記録し、中国10年債先物の債権も下げた。国際金融協会(IIF)によれば、26日には20億ドル、27日には6億ドルの資金が中国市場から流れ出たという。

 いざ家計の負担解消やユーザー保護といった、国民寄りの政策を打ち出せば資本は逃げ出す。無秩序に拡大した大国の舵取りはなかなか難しいようだ。

(猫間滋)

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