フリーアナウンサーの梶原しげるさんが認知症、アルツハイマーだということは、週刊アサヒ芸能の11月16日号にインタビュー記事も出ていたから読んで知った方も多いだろう。
私は梶原さんとは、30年来の知り合いだ。梶原さんの東京での番組はもちろん、静岡や山梨の番組にまで何回も呼んでもらって共演してきた。私生活でも一緒に芝居を観に行ったり、コロナの頃も時々会ってファミレスで長々とサシ話をさせてもらった。
そんな関係性から12月15日放送の特別番組「梶原しげると仲間たち~アルツハイマーとともに~」(文化放送)にも出演させてもらった。番組では「認知症になってしまうと、自分のお金ががんじがらめで使えないものになる」ことを話した。このことは読者の皆さんにもぜひ、知っておいてもらいたい。
認知症の人は65歳以上では約16%と推計されている。80代後半では男性の約35%、女性の約44%と年齢と共に増えていく。決して他人事ではない。
中には「いざとなったら家を売って施設に入ろう」「株や貯金でそこそこの資産があるから、困ったらそれらを処分して費用をまかなってもらおう」と考えている人もいるだろう。
しかし、認知症でみずからの意思が伝えられなくなってしまうと、本人の財産やお金を使えないことがある。時には本人の銀行口座から家族がお金を下ろして、本人の病気のためにお金を使うことでも、違法行為とされてしまうことがある。
ましてや施設の入居となると、数百万円という多額のお金が必要。なので自宅を処分して、そのお金を入居費用に充てようと思っても、本人以外の家族が自宅を処分することはできない。これが、自分のお金ががんじがらめで、使えないものになってしまうという一例である。
お金を動かせるようになるのは、いつの日か本人が亡くなって、家族などが相続したあと。それまでは、虎の子の財産が凍結状態に置かれてしまうことがあるのだ。
それを避けるためには、みずからの意思がしっかりしているうちに、家族がそのお金を使えるようにしておく必要がある。
可能であれば、後見人や家族信託を検討してもらいたい。家族信託とは、わかりやすく言うと、財産の管理を家族の誰かに託し、そこから得られる利益は本人に残すというもの。生前贈与だと財産を処分できるだけでなく、そのものすべてが相続人に移ってしまうので、そこが違うところだ。
また、任意後見人受託という形もある。これは認知症などの状態になった時、後見人になってもらうというもの。成年後見人制度もある。ただ、財産の多くが運用商品の場合だ。例えば、株式などの売却は、後見人では難しいことも多いという。
いずれにしても、いくら迷惑をかけないだけの財産があるといっても、将来、自分で意思決定ができない状態になる可能性があることを考えると、安心はできないということだ。
また「俺は大した財産はないから」と言うなかれ。病気になったり、万が一の時にお金は必要だ。それを信頼できる人や機関に上手に動かしてもらい、有効に使ってもらう方法をきちんと作っておくことも必要ではないかと思う。
それに「後見人? 家族信託? そんなこと、よくわからないよ」という人にも考えてもらいたいのは、まず、持っている資産をシンプルにしていくことだ。
例えば、いくつも銀行口座を持っているならまとめてほしい。株や投資信託ばかりなら、その比率を下げてほしい。そしてある程度絞ったら、メインの銀行口座からお金を下ろせる家族カードというキャッシュカードを作るのはどうだろう。
このように、まずは自分のお金をイザという時に凍結させないことから考えてもらいたい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。