北朝鮮が「韓国の映像物流布者を死刑、視聴者は懲役15年刑に処する」という内容を盛り込んだ「反動思想文化排撃法」を制定したのは、2020年12月のこと。以来、同法による処罰者が後を絶たない状況が続いていたが、新型コロナウィルス感染拡大により国境が封鎖。それを受け、中国経由での「韓国文化」流入が減ったことで処罰者も減少した、と伝えられていた。
だが昨年8月、金正恩総書記のツルの一声で、新型コロナの収束と「勝利」宣言が出されて以降、北朝鮮国内における公開処刑が急増。コロナ禍以前には毎年数十人程度だった公開処刑が、収束後はなんとその10倍にあたる100人に迫るほどの勢いで急増している、と11日付の東京新聞が衝撃的に報じている。
「記事のネタ元は北朝鮮内部事情に詳しい関係者とのこと。記事によれば、処刑された男性は医薬品を盗み出し薬品商に横流しした罪で、先月下旬に中国と国境を接する北部・両江道の飛行場で公開銃殺されたというのですが、当局の指示により処刑現場には2万人近い地域住民が集められ、その一部始終を見るよう強要されたと言います。この飛行場では8月下旬にも、国保有の牛2000頭を不正に購入し肉を売り払った罪で、男性7人、女性2人が公開銃殺されていることから、2ヵ月ちょっとの間に同じ場所で10人が立て続けに処刑され、地元住民はその残虐シーンの一部始終を見せつけられたということになります」(北朝鮮ウォッチャー)
むろん当局の狙いは、死刑を公開し住民の恐怖心をあおり、統制を強化すること。だが、住民の中には女性や小さな子供もいるため、その場で失神したり、家に戻ってから不眠を訴えるケースが後を絶たず、失語症になる子供も少なくないというのだ。
韓国にある国際人権保護団体の「転換期正義ワーキンググループ(TJWG)」が2021年に公表した報告書「金正恩時代10年の処刑地図」によれば、かつては脱北のあっせんや、韓国に逃げた家族との通話などが原因で政治犯収容所に送られ、処刑されるケースが多かった。だが近年は、不適切映像や麻薬が原因で処刑されるケースが急増しているとされる。
また報告書には、2012年と2013年の間に平壌で行われた公開処刑の際、わざと家族を最前列に座らせてその一部始終を見学させ、「ある父親は息子の遺体が燃やされるのを見て気絶した」との記載もあったという。
「韓国情報機関の調査によれば、北朝鮮の公開処刑場は全国に300カ所余りあるとされます。以前は中国との国境付近で行われることが多かったものの、近年は国境や都心から離れた恵山飛行場や、その周辺の野原などを使うことが多いのだとか。ただ、賄賂がはびこる北朝鮮では、処刑される家族に対し『金を払えば日時を延期してやる』といってはカネを受け取るなどして、私腹を肥やす労働党関係者も少なくないといわれています。つまり、いくら統制を強めようが、役人の汚職の構図は何も変わっていない。結局は弱い立場にある一般庶民が泣きを見ているという状況が続いています」(同)
いやはや、こんな国に未来はあるのだろうか。
(灯倫太郎)