北朝鮮で初の女性外相誕生「新女帝」VS「元女帝」激化する権力闘争の行方

 北朝鮮政権上層部内における権力闘争の構図に、またも変化が起こっている。
 
 北朝鮮の朝鮮中央通信が11日、朝鮮労働党中央委員会総会で、これまで対米交渉などを担当してきた崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官を外相に任命したと報じた。北朝鮮で女性の外相は初。

 崔氏は2018年、19年の米朝首脳会談やロシアとの首脳会談で、金総書記に同行している。外相の李善権氏は、対韓国の工作活動を担う統一戦線部長に引く。

「崔氏は1964年に生まれ、崔永林首相の養子として育てられましたが、英語と中国語を学ぶため中国やオーストリアに留学。帰国後の1988年に外交部(現・外務省)に入り、極めて英語の堪能な通訳として、頭角を現すようになってきたと言われています」(北朝鮮情勢に詳しいジャーナリスト)

 そんな崔氏の本格的な外交デビューは2003年。北京で始まった米国やロシア、日本などが参加する6者会談の北朝鮮代表団の英語通訳を務めたのだ。その後2009年8月、ビル・クリントン元米大統領が平壌訪問の際に通訳を担当するなど出世街道をひた走り、翌10年に外務省米州局副局長、2016年には北米局長、2018年に副大臣に就任している。

 とはいえ、一筋縄ではいかないのが、独裁者を頂点とする北朝鮮という国ならではの熾烈な権力闘争だ。

「崔氏は2019年2月にハノイで行われた金正恩氏とトランプ大統領の2回目の会談にも随行しましたが、この時は思うような成果が得られず『ハノイの決裂』とも言われました。じつは北朝鮮には、表だって対米外交を行う代表団とは別に水面下で外交にあたるチャネルがあり、そのひとつが金正恩氏の妹・金与正氏と李容浩外相のチャネル、もう一つが正恩氏と崔氏のチャネル。ところがハノイにおける会談決裂後、この2つが明暗を分けた。与正氏は党中央政治局員候補から外され、李外相も国務委員会議委員を解任されてしまいますが、逆に崔氏は外務省第一副大臣に昇格、国務委員会議の委員のポストも掴み取ることになりました」(同)

 その過程で何があったのかはわからないが、唯一ハッキリしていることは崔氏が与正氏に勝利したということだ。

 しかしその後、対米交渉が停滞。その間に与正氏側の巻き返しが始まり、彼女が党第一副部長として復権を果たすと、朝鮮人民軍出身の李善権氏を外相に抜擢。すると崔氏は外務省の職を解かれて表舞台から消え、冷や飯を食わされることになる。

 ところが、今度は一向に進まない対米交渉に業を煮やした金総書記が、鶴の一声で崔氏の崔氏の登用を指示。今年に入って復権を果たした彼女は、天敵である李外相を統一戦線部長というポストに追いやり、この度、自らが外相に就任したというわけだ。

「結果、与正氏の発言力は相当弱まっているはず。ただ、与正氏がこのまま指をくわえて黙っているとは思えません。崔氏を追い落とし、なんとか政権の中枢に返り咲くことを虎視眈々と狙っているはず。崔氏としては、外相として停滞している朝米交渉を前に進めることが最重要の任務。アメリカの出方によって、まだまだ一波乱、二波乱あることは間違いないでしょう」(同)

「新女帝」と「元女帝」との戦いはまだまだ続きそうだ。

(灯倫太郎)

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