多額の金銭と労力を費やしたものの、ピッチ上での対価は未だに手にしていない——。元スペイン代表の世界的プレーヤーであるMFアンドレス・イニエスタやFWダビド・ビジャと契約したヴィッセル神戸は、なぜ低迷から脱却することができないのか。
2017年夏、主要株主である楽天のトップ・三木谷浩史社長の尽力によって元ドイツ代表ストライカーのルーカス・ポドルスキとの電撃契約を発表したヴィッセル神戸は、翌年にも名門バルセロナからイニエスタを獲得し、続けてビジャやセルジ・サンペールと“バルセロナイズム”を継承する実力派プレーヤーと次々に契約。Jリーグ史上最も豪華な助っ人外国人と言っても差し支えない素晴らしいスカッドが完成したが、肝心の戦績は2019年8月21日時点でJリーグの15位に留まり、すでに11敗を喫している。
また、同じくスペインサッカー界の歴史に確かな足跡を残した元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスを加えたサガン鳥栖も今季の戦績は同時点で7勝3分13敗と振るわず、ヴィッセルに次ぐ16位に低迷。イニエスタにビジャ、トーレスといえば、スペイン代表として臨んだW杯や欧州選手権で無双を誇り、クラブレベルでもタイトルを総ナメにしていた言わずもがなのスーパースターであるが、ことJリーグでは全くタイトル争いに絡めていないのが現状だ。
「かつてウルグアイ代表の点取り屋で、W杯でもMVPに輝いたことがあるFWディエゴ・フォルランを獲得したセレッソ大阪も、現在のヴィッセル神戸のように、タイトル争いをするどころか下位に低迷し、よもやのJ2降格の辛酸をなめる展開となりました。これらの共通点としては、イニエスタもフォルランも盤石に組織化されたチーム環境においてのみ、圧倒的な“個”の強さを発揮できるタイプのプレーヤーで、いきなりボールを渡され“さぁ、ドリブルで全員を抜いて得点を奪ってください”と丸投げされて輝くような選手ではないということ。日本人はこの点を履き違えるケースが少なくなく、Jリーグの歴史を見ても、そのようなタイプは一部の南米やアフリカのプレーヤーに限られるんです」(スポーツライター)
思えば、助っ人外国人がチームのタイトル争いに多大なる貢献を果たしたケースというのは、1997年にガンバ大阪の順位を急激に上昇させたカメルーン代表FWパトリック・エムボマ、そして浦和レッズの2000年代初期から中期に活躍したブラジル人FWエメルソンやFWワシントンである。彼らはイニエスタやフォルランとはプレースタイルやサッカーへの概念が完全に異なり、組織を無力化するほどの圧倒的な“個”の強さを誇るワンマンプレーヤーで、とりわけエムボマやエメルソンの魔法のようなドリブルやテクニックは当時の日本人が経験したことのないような異次元の世界でもあった。
「当時のアフリカンプレーヤーや南米選手のワンマンショーに魅了された日本人のファンは、同じようなマジックをヨーロッパのトップ選手にも求めていますが、アフリカ&南米とヨーロッパではサッカーに対する考え方が全く異なります。個で組織を破壊することに快感を覚える前者に比べ、後者は組織力でいかに安定感と継続性を実現させるかを図るため、イニエスタやビジャがヴィッセル神戸で組織力を形成するには少なくとも3年はかかるでしょう。もちろん30代半ばを越えた彼らが3年以上も日本のクラブに留まってくれるかは分かりませんが…」(スポーツライター)
要は、引退間近の30代の欧州プレーヤーと契約するよりも、20代前半のキレキレなアフリカの若手選手をじっくりと育てた方が、Jリーグにおいては効果抜群の補強になる可能性が高いというわけだ。
もちろんマーケティング面などのピッチ外での収益を考慮に入れた場合は、無名の外国人選手ではなく、イニエスタのようなビッグネームを囲うことが非常に大きな意味を持つのが現実ではある。あとはクラブがピッチ内外のどちらの貢献を望むのか、という点に尽きるのかもしれない。
(木村慎吾)