日本は福島第1原発処理水の海洋放出を8月24日に踏み切ったが、政府レベルで反発する中国は、日本からの水産品の輸入を全面的に停止すると発表。日本の水産物の輸出総額は3873億円で、輸出先は金額順で1位が中国の871億円、2位が香港の755億円、3位がアメリカの539億円(2022年)なので影響は小さくない。
そればかりか、放出が始まった24日以後、福島県内のあらゆる箇所に「86」から始まる中国発信の“国際迷惑電話”が殺到したかと思えば、中国の日本人学校に投石があるなど、嫌がらせの限りを尽くして攻撃を仕掛けてくる印象すらある。困ったものである。
もっとも、重要なのはALPSで取り除けない放射性物質トリチウムの量なのだが、日本が放出の基準にする数値はWHOが定める飲料水の基準よりもはるかに低い。しかも中国の原発から放出されるトリチウム量のほうが圧倒的に大きいのだが、中国側は「反発ありき」なので、科学的見地をもってしての対話は不可能。そのことがありありと表れたのが、特別行政区として高度な自治性を許されながら、実態は中国政府の傀儡でしかない香港がとった禁輸措置だ。この中身を見れば、いかに不合理なものであるかが一目で分かる。
「香港では既に7月12日の段階で、将来的に処理水の放出が行われた場合には、日本の10都県からの水産物を輸入禁止にするという具体的な措置を食品衛生当局が打ち出していました。それによると10都県とは、東京、茨城、福島、宮城、千葉と、ここまでは放水地点からの地理的な近さから理解できなくはないですが、なぜか日本海側の新潟も入っている。さらに、埼玉、栃木、群馬、長野の海なし県まで指定されているのですから、まったく意味不明です」(経済ジャーナリスト)
これには香港メディアでさえ、日本からの輸入は北海道や九州からのものがほとんどで、しかも輸入品目で多いのがナマコやホタテだが、この10都県はほとんど無関係とまで伝えているほどなのだ。中でも最も理解不能なのが長野県だ。
「放水前日の23日、長野県の阿部守一知事が香港の輸入禁止措置について改めて問われ、『科学的に根拠がない』『除外を求めることも考えていく必要がある』と、一般論を述べるのみでした。正直、何だか分からないというのが本音なのではないでしょうか」(同)
確かにホタテやナマコの漁業関係者には悪影響が懸念されるが、香港のこの中途半端な措置を見る限り、だいぶ政治的なポーズ先行という感じもする。だからSNS上でも、「周辺国が中継貿易するだけ」といった見方や、「輸入できない分、中国人が日本まで密漁に来るんじゃないか」という声もあって、おそらくどちらもありそうな気がする。
景気が大減速中の中国、こんなことではますます外国からの投資が離れそうだ。
(猫間滋)