今、750万人香港市民が、揺れに揺れているという。
「国への忠誠心、香港への愛情、国民への責任から出馬を決めた」として、李家超・前政務官が13日、政府トップを決める行政長官選挙に立候補した。香港メディアによれば、中国政府は李氏で候補を一本化するものとみられることから、選挙は李氏の信任投票となる可能性が高く、同氏の行政長官就任が事実上、確定した。
ところがこの李氏、2019年6月に始まった民主派デモの際、催涙弾を撃ちまくり、6000人以上もの市民を拘束した香港警察のトップということもあり、市民の間からは「香港版プーチンの統治が始まった」「香港がウクライナ化するかもしれない」といった不安の声が日増しに高まっているというのだ。
香港の事情に詳しいジャーナリストが語る。
「1957年生まれの李氏は、19歳で香港警察に入り、長いあいだ諜報畑を歩みながら実績を積み上げてきた、文字通りの叩き上げです。その後、2003年にロンドンの王室防衛学院で研修を受け、2017年6月に保安局長に就任。そして、2019年の民主化デモ弾圧の功績を認められ、昨年5月に一気にナンバー2の政務司長に抜擢されたという、習近平氏お気に入りのエリート親中派なんです」
昨年12月には、今後の香港の行方を占うとして注目された香港立法会選挙が行われたが、蓋を開ければ、定員90議席のほぼ全員が「親中派」で固められていたことがわかり、その委員長を務めたのが李氏だったという。
「行政長官選挙は投票権があるのは市民ではなく、1500人の『愛国者』とされる選挙委員会のメンバーのみ。ですから、選挙などしなくてもすでに結果は出ているようなもの。香港市民の間では早くも、李氏が行政長官に就いて5年間の任期中に行われるであろう、中国寄りの改革に最大の関心が集まっています」(同)
会見で李氏は、「香港が過去2年で『乱から治』の変化を成し遂げた」とした上で、自身が当選した場合、最初の任期となる5年間は「治から興」への重要な時期になると語っている。
「李氏は施政の3本柱として、①結果の重視②香港の競争力向上③香港発展の基礎固め、を挙げていますが、得意分野である治安維持にさらに踏み込んでいくことは想像に難くありません。さらに、香港市民にとって最大の懸念が、香港基本法第5条の改定。これには『一国二制度条項』が含まれているのですが、香港基本法の改正権は北京の全国人民代表大会にあるため、やる気になればこの『一国二制度』を『一国一制度』に変えてしまうことも可能。そうなれば、香港がアジアのクリミア半島になりかねず、今回の李氏就任は、香港市民にとってそれほどの恐るべき事態ということです」(同)
李氏が選挙で当選した場合、長官に就任するのは7月1日になる。
(灯倫太郎)