ビッグモーター社員が明かした「アメとムチ」恐怖支配の真実(1)「年収4570万円」のウラで“太客”の争奪バトル

 都内のある店舗を観察してみると、閉店までの約4時間で訪れた客はたった1人─。信用失墜に喘ぐビッグモーター内部から聞こえてくるのは、「アメとムチ」で社員を不正行為に駆り立てる恐怖支配の実態だった。

 入社11年目、営業職のブロック長で年収4570万円─。これは中古車販売大手・ビッグモーターが求人広告に出した正社員募集要項の収入例だ。平均年収が957万円とも記載されており、サラリーマンの中ではかなりの高給取りだ。にわかには信じ難いが、営業部の30代現役社員が証言する。

「ウソくさく感じるかもしれませんが、数千万円稼ぐ社員は実際にいます。ウチの給料はインセンティブが最重要で、営業成績を上げれば上げるほど給料も上がる。高級車を購入したり、短期間で何度も車を乗り換えたりする〝太客〟は社員同士の奪い合いですよ。安く買い叩こうとする担当者と物別れに終わったお客さんに、別の社員が買い取り金額を上乗せして再交渉する、なんてこともあります。逆に成績が悪ければまったく稼げないので、年収300万円前後の正社員だってたくさんいます。ボーナスは完全に成績と紐づいていて、1回あたり100万円以上の社員がいる一方、1万円以下、という社員もいるんです」

 この極端な成果主義を追い求めた結果が、悪質な保険金不正請求にもつながったわけだ。同社の問題を長年取材する、自動車生活ジャーナリストの加藤久美子氏によれば、

「結局、同社の『アメ』は、利益をもたらした社員に対して支払うお金に尽きます。取材した中には、20代ながら不正なしで年収1700万円という現役社員の方もいましたが、それはレアケース。多少なりとも不正なことに手を染めないと、出世できるほどの営業成績を上げられないと思います。利益を上げれば会社も手厚く、過去には業務上横領などで逮捕された社員でも、稼いでいるからという理由で会社に残した例が何人もあるそうです」

 また16年には、自動車保険契約数のノルマを下回った販売店の店長が、上回った店舗の店長に数十万円の現金を支払う慣例があったことがスッパ抜かれている。これもまた「アメとムチ」の一例だろう。加藤氏いわく、

「同社では、兼重宏行前社長の時代から、自腹文化が存在しました。最初は、じゃんけんで負けた社員がみんなにジュースをおごる、という程度のかわいいもので、前社長はそうしたお遊びが好きだったそうです。ですが単なるコミュニケーションの一環が、ランチじゃんけんで2〜3万円の食事代を払うようになり‥‥と、どんどんエスカレート。行きついた先が数十万円の賞金・罰金と言えます」

 店長や幹部クラスだけでなく、ヒラの一般社員でも、自身のミスで発生した損害は、自腹で補填を求められるようになっていく。社員を打ちのめす「ムチ」の存在が、どんどん大きくなっていったのだ。

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