今月1日に山梨県側の吉田ルート、10日に静岡県側の須走、御殿場、富士宮の3ルートが相次いで山開きを迎えた富士山。今年は日本人登山客だけでなくインバウンド復活で4年ぶりに外国人観光客が殺到。登山道は連日大行列の大賑わいとなっている。
だが、富士山へのアクセスは決して便利なわけではなく、公共交通機関はバスのみ。御殿場ルート以外はシーズン中の乗り入れ規制を実施しているが自動車で訪れる登山客も多く、麓の駐車場周辺の道路は慢性的な渋滞で地元住民を悩ませている。また、車の排気ガスが植物などに悪影響を与えることも大きな懸念材料だ。
その打開策として山梨県が提案するのが「富士山登山鉄道構想」。現在、有料道路として使用されている「富士スバルライン」にLRT(ライトレール)を敷設するというもので、新たな輸送手段として期待されている。
「登山列車として世界的に有名なスイスのゴルナーグラート鉄道やユングフラウ鉄道、台湾の阿里山登山鉄道の富士山版です。LRTなら大幅なCO2削減が望めますし、バスや自動車よりも輸送能力は高い。編成数を増やしてピストン輸送することで対応できます」(鉄道ジャーナリスト)
ちなみに構想によると、定員は1編成120人を想定。所要時間は上りが約52分、下りが約74分。当然、車窓からの景色を堪能することもでき、登山目的だけでなく登山列車を目当てに利用する者も増え、観光資源としてもメリットが高いように思える。
世界遺産の登録審査を行うユネスコの諮問機関イコモスも富士山登山鉄道構想を「多くの課題に対応できる」と評価。ところが、地元・富士吉田市の堀内茂市長は「富士山をこれ以上、傷つけるべきではない」と異議を唱え、地元企業や観光協会などで構成される富士五湖観光連盟も反対の姿勢を崩さない。
「富士五湖観光連盟の堀内光一郎会長は地元財界に大きな影響力を持つ富士急行の社長で、堀内茂市長も富士急の創業者一族。山梨県と同社は県有地訴訟などで対立関係にあり、単なる意見の違いだけではありません。関係が改善されなければ実現は難しいでしょうね」(同)
構想のまま幻と終わってしまうのか今後の展開に注目したい。