「ファンからのプレゼントに薬物が」ミュージシャンの薬物事件を傍聴ルポ

 俳優の永山絢斗が逮捕されたのは6月16日のこと。事件は大々的に報じられ、警視庁原宿署から保釈するシーンはワイドショーなどで何度も放送されたが、芸能界のクスリ汚染は予想以上に根深いかもしれない。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が、東京地裁前から男性ミュージシャンの薬物裁判をリポートする。

 先月、ある男性ミュージシャンに対する薬物使用と所持に関する裁判が東京地裁で行われ、判決が言い渡されました。事件自体は一部週刊誌でも取り上げられ、被告人が音楽活動をしている人物ということで傍聴人もやや多めの注目の裁判でした。今のところ、裁判自体は報じられてないようですが。

 起訴されたのは、今年1月と3月に被告人がフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を自己の身体に摂取した件。それと今年の4月に東京都渋谷区内の交際女性宅でフェニルメチルアミノプロパンの結晶0.528gを所持したという件です。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学在学中にアーティスト活動をスタートさせ、大学を辞めて音楽家として活動中。前科は無く、今回が初めての逮捕・起訴となります。被告人は、2021年12月頃から交際女性と性交の際にフェニルメチルアミノプロパンを使用するようになったという。

 そして今年4月の犯行当日。被告人は交際女性宅でフェニルメチルアミノプロパンを使用したところ、けいれんしたので病院に搬送。その日のうちに尿検査が行われ、陽性反応が出たので逮捕。さらに、今年1月にも緊急搬送された病院で尿検査が行われて処分が保留となっていた件と合わせて起訴されたというのが事件の流れになります。

 そして被告人質問。まずは弁護人から。

弁護人「今年1月に覚せい剤を使用したと。いつか覚えてますか?」

被告人「音楽関係の舞台で関西から東京に来てる時なんで、1月22日前後です」

弁護人「入手先は?」

被告人「仲村(仮名、以下同)さんからです」

弁護人「今年4月、逮捕されたのはどこですか?」

被告人「仲村さんのおうちです」

 俗称で“性ドラッグ”なんて呼ばれ方もする薬物ですが、被告人の場合は彼女からのススメで使うようになってしまったようです。

弁護人「4月の逮捕時に所持していた薬物の入手先は?」

被告人「ファンからのプレゼントの中に入ってました。『これ、合法だよ』と」

弁護人「合法だと思ってましたか?」

被告人「9割信じてませんでした」

 薬物をプレゼントする人物をファンとは呼べない気もしますが、人前に立つ職業ゆえ、悪い人も近付いて来ていたことになります。

弁護人「今後はどこで生活しますか?」

被告人「関西の実家で暮らします」

弁護人「音楽活動はどうするんですか?」

被告人「楽曲を作ってCGで映像作ったりしたいです」

弁護人「人と接触の可能性があるライブは控えると?」

被告人「はい。もうそれ以前の話なので。この人は立派な人間だと思われるようになりたいと思います」

 曲を作るという音楽の創作活動は続けると宣言です。ステージ上の彼を見られるのはもう少し先になりそうですが、ファンにとっては嬉しい証言でしょう。続いて、検察官からの質問。
 
検察官「逮捕当初、取り調べでは自分は(薬物を)打ってないと答えてましたよね?」

被告人「まだ抜けてなくて、真面目な考えが出なくて…。有る事無い事ゴチャ混ぜでした」

検察官「今日ここで正直に話してますか?」

被告人「はい。もう二度とやりたくないです」

検察官「今後、仲村さんとはどうするんですか?」

被告人「お互いにとって良いことがないので…。もう、実家に帰ってチェキ売ります」

 彼女とは別れて、チェキ販売という活動もすると宣言です。最後は裁判官から。
 
裁判官「仲村さんはね、取り調べではあなたに『打ち方を教えた』って答えてるようなんだけど、今年1月は打たれたの?」

被告人「はい」

裁判官「あとさっき言ってたファンってよく知ってる人?」

被告人「ライブに2回来てくれたかなぁという程度の人です」

裁判官「今までは周りに違法な薬物をすすめる人がいたと。今後近付いて来たらどうします?」

被告人「もう真面目にやっていこうと思ってるんで、打ち勝っていきます」

 具体策はないものの二度と手を出さないと考えているようです。

裁判官「どうなったらライブ再開するの?」

被告人「う~ん…サブスクやってて、その収益をグリーンバックで撮影し…」

裁判官「そういう細かいことを聞いてるんじゃなくて、いつ再開するの?」

被告人「ファンの方が喜んでくれるようなトーク力を身に付けてからと考えてます」

裁判官「ん?それは医者から働いても大丈夫ですよ、と言われてからって事?」

被告人「はい、そうです」

 今後の音楽について裁判官は非常に気になっていたようでした。薬物の入手先がライブ会場でファンを名乗る人物だったとなれば当然でしょう。

裁判官「あと、薬物依存のカウンセリングは受けないんですか?」

被告人「いや、思い出したくないので。そもそも僕は依存してないので切り捨てたいと思います」

裁判官「裁判1回目の人はみんな同じこと言ってて、最初のうちは我慢出来るけど6、7年経って再開する人もいるんですよね」

被告人「はい、キチンと考えます」

 カウンセリングを受けることで違法薬物を思い出してしまうというのは面白い考え方ですけど、やめ続けるために意識しなきゃいけないものなんでしょうね。被告人もまだ軽く考えてた印象を受けましたけど。

 この後、検察官は懲役2年と薬物1袋没収という求刑をして初公判は閉廷となりました。
 
 初公判から1週間後。被告人に判決が言い渡されました。結果は懲役2年執行猶予3年。薬物1袋没収。初犯なので執行猶予が付いた判決でしたが、被告人の認識の甘さや質疑応答の噛み合わなさを見てるとちょっと心配になってしまいました。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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