誰もが知ってる有名CMの音楽を手掛けたというクリエイターが、違法薬物を所持していた容疑で逮捕されていた。これがドラマや舞台に出演予定の俳優ならば、代役を立てるのが一般的だが、被告人が携わったCMは今もテレビでオンエアされ続けているという。逮捕にいたった薬物遍歴とその“後始末”をお笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。
芸能人が何か問題を起こして、その人が出演してたテレビ番組がお蔵入りになるってケースがありますね。ただ最近は「作品は別物」という考え方が主流のようで、映画にいたっては「上映しない」「公開延期」という判断が下されるケースは少ないようですが…。という前振りをして、先日東京地裁で行われた裁判の話を。
被告人は会社員の男性(30代)。起訴されたのは、去年7月に被告人が東京都世田谷区の路上に停めた車の中で、違法薬物に指定された乾燥麻草を含む植物細片4.97gを所持したという内容。
所持量1g以下の事件も珍しくないので、なかなかの量ってことになります。被告人は罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学を卒業後に会社員になり、現在もそのまま働いているという。2020年5月にツイッターで売人と知り合い、違法薬物を購入したらしい。
取り調べに対し被告人は「2004年にドイツに行った時にオランダ人に勧められて初めて吸った。その後アメリカに仕事で行った時にも使った。今回はコロナの影響で仕事が8割なくなり、日本でも吸えないかと思ってツイッターで『都内、手押し、野菜』で検索したら売人が見つかった。テレグラムで連絡を取り、5月に5g、6月に5g購入した」と供述しているそうな。手押しとか野菜って隠語を知ってる時点で初心者じゃない印象を受けるけど、ネットで検索すればそんな専門用語はいくらでもわかるでしょうしね。
そして被告人質問。
弁護人「大学卒業して海外行った時に合法の国で吸ったと?」
被告人「はい」
弁護人「日本では違法なのは当然わかってるよね。なぜ吸ったの?」
被告人「8割近い仕事がなくなりまして…。時間が余って暇を持て余しました」
業種をハッキリ言ってくれなかったけど、証人の発言やネット上に公開されている被告人のプロフィールから、どうやらCMソングや日本映画の音楽も担当してきたようです。CMも誰もが見たことがある超有名な作品もあって、今も普通にテレビやネットで視聴可能。それらの仕事が8割なくなるとは…。この業界もコロナの影響をガッツリ受けてるんですね。
弁護人「仕事に影響ありました?」
被告人「会社には迷惑かけてしまいました。解雇はなかったですけど誓約書を書きました」
弁護人「どんな内容ですか?」
被告人「クライアントさんがいる仕事なので二度と麻草に手を出さないと」
クライアントがいない職業でもダメな物はダメなんですけどね。多分いろんな人に怒られたってことなんでしょう。
所持量は多いけど、罪も認めているということで即判決が言い渡されました。結果は懲役6月執行猶予2年。それと所持していた薬物の没収。前科もないので執行猶予付きの判決でした。
ルールに反した薬物を所持するのは当然ダメなんだけど、それでお蔵入りとかにするのは筋違いですよね。この被告人が関わってるCMだって普通に流れてるんだから。成熟した社会であるなら作品史上主義であってほしいものですね。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。