「霊媒師が無免許で注射を…」法廷で明かされたヤバすぎる老人ホームの実態

 お笑い芸人の阿曽山大噴火は傍聴歴20年以上の裁判ウォッチャーとして知られている。豊富なキャリアを持つ彼が、その罪名から“激レア”とも言われる事件の裁判を傍聴したという。法廷で明らかにされたヤバすぎる老人ホームの実態とは?

 毎日裁判所に通っていても傍聴する機会が少ないレアな罪名の罪名の裁判がたま~にあります。個人的には20年以上通って初めて傍聴した罪名の裁判傍聴記を。

 被告人は介護士の女性(50代)。罪名は、有印公文書偽造・同行使、保健師助産師看護師法違反。この保健師助産師看護師法違反っていうのが相当珍しい罪名になります。

 起訴されたのは3件。

 一つ目は自宅で知人の看護師免許をコピーして、名前を書き換えて偽造した件。

 二つ目は有料老人ホームで、偽装した免許を行使した件。

 三つ目は2018~2019年に有料老人ホームに入居してる男性に対して、免許が無いのに血糖値測定やインスリン注射を36回行った件。

 看護師免許を持ってない人物がインスリン注射をするデイサービスが存在していた、という衝撃的な事件です。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は専門学校生を卒業後は美容師として仕事をしていたという。

 そして7年前、本件現場であるデイサービス兼有料老人ホームを経営する社長と半同棲生活を送るようになっていたとのこと。そして社長から「看護師を探している」と言われたが、なかなか見つからなかったらしい。

 そこで被告人は10年以上前から霊媒師として人の悩みを聞いていて、その活動の中で知り合った看護師の女性から看護師免許を借りて偽造。その偽造免許を有料老人ホームに提出して血糖値測定・バイタルチェック・インスリン注射などの業務をこなし約1年間働いていた、というのが事件のあらましです。

 霊媒師自体なかなか会う機会が無いけど、看護師を装う霊媒師となると歴史上ほぼいないでしょ。と言うか、社長も同棲するくらいの仲なんだから、被告人が看護師免許を持ってないことは知ってたはずなんですよね。一体何があったのか?

 そして被告人質問。まずは弁護人から。

弁護人「偽造をしたのはいつですか?」

被告人「2018年1月です。社長のAさんとお付き合いをしていて、土日も働ける看護師を探してると言われたのですが見つからなかったのでやりました」

弁護人「何故あなたが偽ったんですか?」

被告人「何度もAさんから『見つからんのかー!』と恫喝されたからです」

 どうやら社長から何度も何度も怒られてたようなのです。

弁護人「元々その有料老人ホームはどんな環境でしたか?」

被告人「入居者20名以上でスタッフは3名。とても手が届きません。便は垂れ流したまま、夜は入居者が出歩かないようにベッドに縛りつけるという環境でした。それで看護師が入って人が増えれば環境が変えられると思いました」

弁護人「あなた以外にも免許無い人が測定や注射してたんですか?」

被告人「はい、何度も見ております」

弁護人「罪悪感はありませんでしたか?」

被告人「ありましたけど、誰かが注射打たないと命に関わります!」

 相当ヤバい所のようですね。こんな劣悪な有料老人ホームはそうそう無いと信じたいですが。

 続いて検察官からの質問です。

検察官「そんな環境を変えたかったと。通報しようとは思いませんでしたか?」

被告人「考えました。そして役所に電話したり書類を送ったんですが、すぐには動けないと」

検察官「それを聞いてどう思いました?」

被告人「誰も助けてくれないんだな、と」

 行政に指導してもらおうと動いてたみたいですね。しかし無視と言うか、扱ってもらえず…。

検察官「インスリン注射してる時、患者さんからは何か言われました?」

被告人「『他の人は打ち方が早くて痛いから、ゆっくり打ってくれて助かる』と言われてました」

検察官「感謝されながら看護師を装ってて裏切ってるとは思いませんでした?」

被告人「申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

検察官「じゃあ何故続けたんですか?」

被告人「続けたくなくても続けなきゃいけない状況でした」

 自分がこの職場からいなくなれば更に環境が悪化するのがわかってたんでしょうね。入居者や患者を裏切れなかったと…。

 最後は裁判官から。

裁判官「動機は、ここの環境を改善したかったと?」

被告人「はい。とても預けられる環境ではなかったので」

裁判官「でも無免許で働いて、違法行為によってさらに悪くしてるとは思いませんでしたか?」

被告人「んん……言われる通りです。大変な事を起こしてしまいました…」

 何か反論したそうなんだけど、グッと言葉を飲み込んだように見えました。

裁判官「で、今は介護の仕事に転職してると。似た仕事をしてるのは何故ですか?」

被告人「このような事をしたので償いたくって」

 と述べたところで被告人質問は全て終了。看護師の免許を取るのは大変だからなのか、介護士として働いてるんですね。被告人のマジメさが垣間見えるところですね。

 この公判から2週間後に判決が言い渡されました。結果は懲役2年執行猶予4年。環境を改善したいという動機は身勝手極まりないと裁判官に厳しく指摘されたものの、前科が無いこともあって実刑は免れました。

 ルール的にはアウトなんだけど、なんとも憎めない人物なんですよ。社長に責め立てられ、現状を知って環境を変えようとして…。

 本来処罰されるべきなのは社長だと思うんだけどなぁ。ちなみにこの施設はレビューサイトで星1つの超低評価になってました。知ってる人は知ってるんですね。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

※写真はイメージです

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