田村正之さんの「人生100年時代の年金戦略」(日本経済新聞出版社)にも、年金についてのノウハウがたくさん紹介されています。田村さんは日本経済新聞社の編集委員で、彼も「年金は破綻しない」と書いています。
この本の第2章「公的年金、フル活用のための実践術」は、繰り下げ受給をはじめとして、具体的な活用法が書かれています。
例えば「離婚年金分割」についても詳しく説明しています。離婚をする時、将来の年金を分ける仕組みです。もっとも私は、豊かな老後を送るためには夫婦仲がよいことが不可欠だと思います。分厚いステーキも嫌いな相手と食べるとまずいけれど、好きな人とならそうめんだってごちそうです。
しかし、いくら仲のいい夫婦でも、どちらかが先立つこともあるでしょう。そんな時には「遺族年金」があります。ただし、会社員・公務員か自営業・専業主婦であるかどうか、子供はいるかどうか、年齢などで受給に違いがあります。
ケガや病気で障害を負った人には、「障害年金」の受給資格があります。対象はうつ病など精神障害や内臓疾患なども含まれます。
田村さんのこの本には、うつ病で退職した男性の例が紹介されています。退職から8年後「障害年金」のことを知って請求すると年に180万円の受給が決まりました。しかし、この男性が受け取ったのは5年分の900万円だけ。請求の時効は原則5年で、その前の3年分、540万円は権利がなくなっていました。
この例でもわかるように、日本のお役所は、利用者から請求があるまで動こうとしません。役所のほうから「あなたはこんな便利な制度を利用できますよ」と案内が来ることはないのです。「人生100年時代」を生き抜くには、正しい情報を知ることが不可欠です。
田村さんの本には、私と意見が違うところがひとつあります。それは投資について。田村さんは、私と違って投資を勧めていますが、違う意見も参考に。
私は「年金だけでも暮らせます」でも書いたように、銀行で投資信託を買っている人の46%が損をしていて、投資はギャンブルだと思っています。若いうちから投資に慣れた人はいいですが、素人が退職金を投資に回すことはないでしょう。
選書2:人生100年時代の年金戦略/田村正之・著/日本経済新聞出版社/1512円
荻原博子(おぎわら・ひろこ)/経済ジャーナリスト。明治大学を卒業後、経済事務所勤務を経て1982年に独立。不動産の下落、デフレの長期化を早くから予測するなど経済観には定評がある。家計経済のパイオニアとしてテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで活躍中。近著に「荻原博子の貯まる家計」「役所は教えてくれない定年前後『お金』の裏ワザ」。