「人生100年時代」を生き抜くためには、お金だけでなく、豊かな老後を送るために意識を変えること。発想の転換が必要です。
まずおすすめしたいのが暉てる暉峻淑子(てるおかいつこ)さんの「豊かさとは何か」(岩波新書)。30年も前に出た本ですが、いまだに版を重ねていて、最新版は今年2月に出た第67刷です。
暉峻さんは80年代後半、西ドイツ(当時)に長期滞在しました。日本と同じように第二次世界大戦の敗戦国であり、焼け野原から奇跡的な復興を遂げた西ドイツですが、日本とは大きな違いがありました。
日本はちょうどバブルの頃です。西ドイツから見ると、日本の豊かさはお金と商品だけ。その一方で、環境破壊が進み、サラリーマンは働きすぎて過労死し、子供たちは受験競争に駆り立てられています。世界一お金持ちになったはずなのに、国民はゆとりも安らぎも実感できません。心の豊かさを置き去りにしていたのです。いったい私たちはどこで間違えてしまったのか。豊かさとは何なのかを、暉峻さんは考えます。現代にも当てはまる本です。
若宮正子さんの「60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。」(新潮社)を読むと勇気が湧いてきます。著者は82歳でiPhoneのゲームアプリを開発して話題になった人。私もお目にかかってお話ししましたが、若々しくて好奇心いっぱいのすてきな女性です。
若宮さんは高校卒業後に銀行に入社し、定年まで勤め上げました。パソコンをコミュニケーション手段として使いこなすようになるのは還暦を迎えてからのこと。まだインターネットが普及する前のパソコン通信の時代でした。
やがてスマホが登場し、若宮さんは高齢者でも楽しめるゲームアプリを開発しました。独学でプログラムを身につけたのです。
若宮さんはアップルCEOのティム・クックとハグしたり、海外でも講演したりしていますが、留学や海外在住経験があるわけではありません。なんとグーグル翻訳を駆使しているそうです。
もう1冊は篠田桃紅さんの「一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い」(幻冬舎文庫)。篠田さんは1913年生まれですから、現在、106歳。現役の画家です。その高度に抽象的な作品は、国際的にも高く評価されています。100歳を超えてのこのエッセイでは、1人で生きていくことの潔さがつづられています。
若宮さんや篠田さんの生き方を見ていると、「2000万円貯めないと」などとあたふたするよりも、大切なことが見えてきます。
選書3:豊かさとは何か/暉峻淑子・著/岩波新書/907円
選書4:60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。/若宮正子・著/新潮社/1296円
選書5:一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い/篠田桃紅・著/幻冬舎文庫/540円
荻原博子(おぎわら・ひろこ)/経済ジャーナリスト。明治大学を卒業後、経済事務所勤務を経て1982年に独立。不動産の下落、デフレの長期化を早くから予測するなど経済観には定評がある。家計経済のパイオニアとしてテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで活躍中。近著に「荻原博子の貯まる家計」「役所は教えてくれない定年前後『お金』の裏ワザ」。