ここ最近の強硬発言の裏には、政界重鎮の後ろ盾があったのか。
激戦が続く、東部バフムト最前線に立つロシアの民間軍事会社「ワグネル」。だが、創設者プリゴジン氏は、前線に弾薬が届かず戦闘員が無駄死にしているとし「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ」と、国防幹部らを名指しで批判。一時は軍部から弾薬供給が約束され戦闘継続を表明するも、届いた弾薬が要求の10分の1だったことに再び激怒。
5月9日の戦勝記念日には、SNS上に「幸せなおじいさんが完全なアホであることが突然分かった場合、どうして戦争に勝てるのか」と投稿。独立系メディアは、この「幸せなおじいさん」こそプーチン大統領を指すものだと報じ、プリゴジン氏はすぐに投稿を取り下げたものの、ロシア国内には大きな波紋が広がった。
そんなプリゴジン氏がいま積極的に接近している政党があるという。それが、ロシア下院で27議席を有する「公正ロシア」だ。
「公正ロシアは、与党の統一ロシア、野党の共産党に次ぐ、中道左派の第3党。党首を務めるセルゲイ・ミロノフ氏は01年から11年にかけて、上院にあたる『連邦院』の議長を務め、現在は下院の副議長を務める重鎮です。同党が掲げる政策は、貧困の撲滅、汚職の追放などで、与党統一ロシアを『高級官僚の労働組合』などと揶揄していますが、その実はウクライナ侵攻を支持する立場を鮮明に打ち出しており、プーチン政権を指示する『体制内野党』とも言われる。そんなことから、ワグネルがバフムト近郊のソレダルを掌握した際には『ワグネルの合法化』を訴えたほどで、プリゴジン氏とミロノフ氏は現在、かなり近い関係にあると見られています」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
ミロノフ氏は昨年4月、「日本はロシアに対して繰り返しクリル諸島(北方領土と千島列島)に関する主張を繰り返してきたが、一部の専門家は、北海道の全権はロシアにあると言っている」とツイートし、日本でも問題になった。現在、ミロノフ氏とプーチン氏の関係については不明だが、国防幹部や政権を立て続けに批判するプリゴジン氏が、ミノロフ氏に急接近しているとなると、そこには何らかの思惑があるはずだ。
「プリゴジン氏は貧困家庭に育ち、ホットドックの屋台から高級レストランの経営に成功してオリガルヒに上り詰めた叩き上げの人物。そして、次に狙うのが政界進出だと言われています。その野望をミロノフ氏率いる公正ロシアがバックアップしているとしたら…そう考えると、最近の強気な言動も納得できますね」(同)
「ロシアの敗北」を口にする民間軍事会社代表の頭の中には、すでに“プーチン後の世界”の構想があるのかもしれない。
(灯倫太郎)
*画像はワグネルのSNSより