アフリカ大陸の北西に位置するスーダンでは現在、かつては協力関係にあった正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が対立し、内戦状態に突入している。首都ハルツームの他、各地で激しい戦闘が続いている状況だ。
同国保健省の発表によると、5月1日までの死者は550人で負傷者は4900人。だが、実際にはこの数字をはるかに上回り、すでに民間人にも多数の犠牲者が出ていると見られている。また、首都では略奪が横行するなど治安も悪化。日本人を含む現地駐在の外国人のほとんどはすでに脱出しているが、停戦の目途は立っていないのが現状だ。
そんな中、世界保健機関(WHO)が「(スーダンに)バイオハザード(生物災害)の恐れがある。極めて危険な状態だ」との声明を発表した。ハルツームにある国立公衆衛生研究所が占拠されたことで、同所に保管している「病原菌」が拡散してパンデミックが発生する危険性があるというのだ。
「スーダンは内戦突入後、慢性的な停電状態にあり、温度管理ができなくなったことで各ウイルスが大繁殖していると言われています。しかも、正規軍とRSFはお世辞にも規律を守る軍隊とは言い難い。施設内部が荒らされていることも容易に想像でき、ウイルスの拡散を防ぐのは非常に困難と危惧されているのです」(医療ジャーナリスト)
同研究所には、コレラやはしかのウイルスが保管されていることが伝えられているが、もっとも危険とされるのが「エボラウイルス」だ。周知のようにエボラウイルスが原因で発症するエボラ出血熱は、感染すると38度以上の高熱、嘔吐や下痢、内臓機能の低下が起こる。致死率は極めて高く、確立された治療法もワクチンもない。スーダンはこの危険な伝染病の流行地域の1つで、「スーダン型」と呼ばれるウイルスも存在するほどだ。
「スーダン型の致死率は約50%ですが、研究所にはもっとも凶悪とされる致死率90%のザイール型のウイルスが保管されていた可能性も高いのです。下手をすると収拾がつかなくなる事態になりかねません」(前出・ジャーナリスト)
内戦状態も問題だが、凶悪ウイルスの拡散という、より重大な危機に瀕しているのだ。