ウクライナ東部の要衝、バフムトで激しい戦闘が続く中、いよいよロシアの民間軍事会社「ワグネル」が最前線から撤退するときが近づいているようだ。
ワグネルの創設者・プリゴジン氏は4月29日、ワグネルへの弾薬供給を滞らせているロシアのショイグ国防相に対し、「28日までに弾薬の供給問題が解決されなければ、バフムトを放棄して前線を明け渡す」という最後通牒の手紙を送っていたと、複数の独立系メディアが報じている。
「同氏が軍事評論家とのインタビューで語ったことですが、ワグネルはロシアのウクライナ侵略開始以降、ロシア国内の受刑者を大量動員するなど、現在までにおおよそ5万人の戦闘員をウクライナに送り込んできたとされます。一時は正規軍を上回る戦果を上げたものの、ここ数カ月は死傷者数が急増。世論の反発もあり受刑者募集も中止し、今年3月からはロシア各地のスポーツジムに採用拠点を置いたものの、戦闘員の補充は難航しているようです。しかもショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長など軍主流派らは、政権内部で影響力を持ち始めたプリゴジン氏を警戒し、ここ数カ月ワグネルへの弾薬供給を制限して犠牲者を急拡大させてしまった。この意図的とも思えるいじめに対し、プリゴジン氏の怒りが爆発。国防省との対立は一触即発の状態にあると報じられていました」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
そして、ついに最後通牒に繋がったというわけだ。プリゴジン氏は、インタビューの中で「間もなく存在しなくなる」という表現をつかい、5月15日までに開始されるとも言われるウクライナ側の反転攻勢によって、「(ロシア側に)壊滅的な結果をもたらす恐れがある」と指摘している。
ただ、ロシアの独立系メディアの中には、プリゴジン氏は以前からウクライナに見切りをつけており、スーダンへ鞍替えするタイミングを計っていた、との報道もある。
「実は近年、ワグネルは隣国であるセルビアで兵士のリクルートを活発化させてきたんです。セルビアはロシアにとって最も近しい同盟国の一つ。90年代後半の旧ユーゴスラビア紛争で米欧と敵対し、NATO軍による攻撃を受けたことから、セルビア国民の間にはいまだ反米や反欧の意識が根強いのです。プリゴジン氏はこれを利用し、SNSを使って若者の反米欧感情をあおって洗脳。おおっぴらに勧誘というスタイルをとらず、プロパガンダで戦闘員志願者を募ってきたといいます。結果、数は不明であるものの、一定数のセルビア人がウクライナでロシア軍として戦っているというのです」(同)
そして、ウクライナからの撤退を機に、「ワグネル」兵となったセルビア人兵士が、スーダンへ送られるという可能性も囁かれているというのだ。
「ウクライナ戦争に参加したセルビア人兵士は、反米欧のプロパガンダに影響を受けた民族主義的な考えに傾倒する若者。なので、本人が望んでスーダンに行くとは考えられませんが、そこは金で雇われた傭兵ですからね。ワグネルはすでにスーダンの準軍事組織『即応支援部隊(RSF)』に武器供与し、今後は戦闘員も送り込むと見られています。今後ウクライナからスーダンに場所を移し、ワグネルによる残虐行為が行われるなら、そこにワグネルに残ったセルビア人兵士がいない保障はどこにもないでしょう」(同)
プリゴジン氏が指定した28日は過ぎているが、はたしてショイグ国防相が出した答えは…。
(灯倫太郎)