独裁者がのさばるところ、悲劇あり─。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が中東のシリア・アラブ共和国の惨状を語る。
「シリアではアサド家の独裁が50年間も続いています。バッシャールが2000年に父の後を継いで大統領に就任後、11年にはシリアでも民主化を求める人たちが立ち上がりましたが、アサド政権はこれを弾圧。以降、化学兵器を使った攻撃も含め一般市民も多数殺害され、拷問・処刑なども合わせて死者は60万人以上、シリアを脱出した難民は700万人近くに上り、犠牲は現在も増え続けています。帰国したとたんに拘束されて拷問される事例が続出しており、難民のほとんどが帰国できないありさまです」
このアサド政権を国外から支え続けてきたのが、イランだ。
「イランも問題の多い国です。イランのトップは最高指導者のアリ・ハメネイですが、国内ではイスラム革命防衛隊という組織が力を持っていて、この組織が国内の民主派を徹底的に弾圧しています。また、革命防衛隊の海外工作機関『コッズ部隊』は、イラクやシリア、レバノン、パレスチナなどで盛んに破壊工作を実行しています。中東では様々な非人道的な暴力、テロなどが頻発していますが、その多くのケースで、背後にこの部隊が暗躍。中東地域でも札付きの極悪集団といったところでしょうか」(黒井氏)
この「革命防衛隊」は、19年にアメリカが「国際テロ組織」に指定しているが、国際ジャーナリストの山田敏弘氏はこんな見解を示す。
「かつてのアルカイダといったテロ組織より、極端な政治思想を持ったローンウルフ(一匹狼)の存在の方が怖い。先日、アメリカ国防総省の機密情報が漏洩して大騒ぎになりましたが、持ち出した人間は21歳の空軍州兵のゲームオタク。これもローンウルフが引き起こしたテロ行為の一例と言えます」
テロ同様、看過できないのが麻薬戦争だ。メキシコでは一国の軍隊並みの軍備を持つ麻薬組織が暗躍し、これまで1000人以上の警察官が犠牲になっているのだ。
「国内最大の犯罪組織と言われるのがシナロア・カルテル。その最高幹部で、アメリカ政府が『地球上で最も残酷』と評したホアキン・グスマンは現在、アメリカの刑務所に服役していますが、同じく幹部のイスマエル・ザンバダ・ガルシアこそが、最重要人物と目されています。彼は一度も刑務所に入ったことのない伝説の人物として、メキシコのアンダーグラウンド界で恐れられています」(麻薬事情に詳しいジャーナリスト)
日本の安全は果たして大丈夫なのか。思い知るとともに危険人物が出ないことを祈るばかりだ。
*週刊アサヒ芸能5月4・11日号掲載