原因は「一人っ子政策」…中国で横行「女性の人身売買」が止まらない!

 気温0度という凍てつく寒さの中、中国江蘇省にある村で、扉もない古い小屋の中から、鎖で首をつながれた女性が発見されたのは昨年1月26日だった。その映像がSNSでアップされ、さらにこの女性が8人の子どもを産んでいたとして、中国政府を巻き込む「一大人身売買事件」として、大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。

 あれから、1年超が経過した4月7日、江蘇省徐州市の中級人民法院が、女性の夫を虐待や違法拘禁の罪で懲役9年、また、女性の誘拐や人身売買に関わった男女5人に懲役8〜13年の実刑判決を言い渡したことが、現地メディアの報道で明らかになった。中国問題に詳しいジャーナリストが解説する。

「有罪判決を受けた夫は、中国の一人っ子政策において、貧しいながらも8人もの子供を育てる偉大な父として、地元企業の広告にも登場していた。そんなこともあり、地元当局も当初は、夫妻には正当な結婚証明書があり、2人の間にトラブルがあっただけだとして、人身売買疑惑を否定していたんです。監禁容疑に関しても、女性が統合失調症を患っていて暴力的な発作を起こしやすいため、という夫側の主張を鵜呑みにしていた。とはいえ、さすがに小屋に閉じ込められた状態で、8人の子供を産んでいたなど通常では考えられない。当局による女性への扱いや、人身売買被害者を見て見ぬふりするような姿勢に批判が集まり、結果、当局も本腰を入れて動かざるを得ない状況になったのです」

 捜査の結果、なんとこの女性は、これまでに3回も「転売」されていたという事実が判明したのだ。女性は1998年に故郷の雲南省で誘拐され、2000キロ離れた街に住む農家におよそ5000元(約10万円)で売られていた。当時はまだ10代だったという。

「当局の発表によれば、女性はその後、農家を逃げ出して別の街である夫婦に拾われたものの、今度は工事現場で働く2人の男に3000元(約6万円)で売られました。さらにその後、現夫の父親が、この男たちから5000元(約10万円)で買い、結婚できなかった息子の妻にしたというんです。しかも、女性は1999年に1人目を産み、2011年から2020年までの間に7人の子どもを産まされました」(前出・ジャーナリスト)

 3人目を出産後の2017年ごろには、夫が女性を屋外の小屋に移し、布製のロープや鎖で縛りつけたまま、性的虐待を繰り返したという。小屋には水道や電気もなく、時には食事さえ与えないなど、悲惨極まる状況だったことが裁判で明らかになっている。

「ただ、中国の現時点での刑法では、人身売買の『売り手』と『買い手』では最高刑が異なり、売った側の最高刑は死刑と、極めて重いのに対し、買い手の最高刑は懲役3年。しかも時効は5年で、それを過ぎれば起訴できない。結果、この事件でも夫を人身売買の罪で裁くことができず、懲役9年という判決だった。SNSでは《女性の人生を踏みにじっておいて、たった9年なんて甘すぎる!》といった怒りの声が噴出していますね」(前出・ジャーナリスト)

 実は、近年の中国では、人身売買や強制結婚での逮捕者が増加する傾向にあり、その原因が2016年まで続いた厳格な「一人っ子政策」にあるとされている。

「中国では長年続けられたこの政策により、男児を望む風潮が生まれました。結果、女性より男性が約3300万人も多くなり、相当数の男性が生涯独身になる可能性が出てきてしまった。そこで最近では犯罪組織が仲介し、中国国内はもとより、ミャンマーやカンボジア、ラオス、ベトナム、タイなどの女性を『仕事』や『結婚』をエサに中国に入国させています。中には誘拐して『妻』として売りはらう、といったビジネスも横行するようになったのです」(前出・ジャーナリスト)

 実際、2019年には、中国公安省が「妻として売られた東南アジア出身の女性1100人以上を救出した」と発表し、中国国内に衝撃が走ったこともあった。

 とはいえ、それから3年以上経った今も、人身売買は改善されないままなのである。

(灯倫太郎)

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