4月9日に投開票があった統一地方選前半。奈良県知事に維新が勝利するサプライズ、リニア新幹線や冬季五輪の是非をかけた静岡や札幌市長選など、様々に注目選挙があった中、別の意味でスポットがあたったのが神奈川知事選。「生放送前の生だよ〜!!」「アワビにバナナ」などと不貞相手にキモすぎるメールを送っていたとして、4選を目指す黒岩祐治氏が選挙直前の4月5日に「文春砲」を被弾したからだ。普通なら懺悔と禊の選挙戦となって苦戦しそうなものなのだが、いざ蓋を開けてみれば開票数の75%以上の得票という圧勝だった。
「不貞報道はあの通り極めて恥ずかしい中身のものですから、本来は強い逆風のはずでしたが、結果としては全く無風でした。というのも神奈川県知事選に関しては、告示された段階からネットやSNSでは『ヒドい』『ヤバイ』と言われるくらいこれといった対立候補が出馬していなくて、“選びようがない”選挙でしたから」(全国紙記者)
3期12年と知事を務めて4選を狙う黒岩氏は、自民、公明、国民民主が推薦。一方、一番の対抗馬は市民団体代表の女性という、典型的な共産党候補のみ。残る2人は大津綾香・政治家女子48党首と医師の男性だが、大津党首の立候補はそもそも新党首の「顔見世興行」と謳っていたくらいで、なおかつ党はゴタゴタの真っ最中。医師の男性は以前、千葉県知事選に出馬した際、政見放送で小池百合子・東京都知事にプロポーズしたことがあるというお方。確かに、極端過ぎた。
黒岩氏は自民党県連会長の小泉進次郎氏が出馬を要請し、菅義偉元総理が前のめりで応援していたので、現職の強みと元々あった知名度を生かして戦う前から勝利は決まったようなものだ。だがそうなったのも、野党がだらしなさ過ぎたためだ。
「これといった対立候補を立てられない立憲民主は、黒岩さんへの相乗り説もありましたが、黒岩さんが多選であることと、前回選挙でIR推進について意見が合わずに推薦を足蹴にされた経緯があって白紙投票。神奈川県では衆院で2議席、参院で1議席を有し、今回の統一地方選では神奈川県を関東進出の橋頭保と位置付けた日本維新の会は、県内に50人以上の候補者を擁立するという力の入れようでしたが、その参院1議席である黒岩さんの前知事の松沢成文氏が結局は候補者を立てられず、県知事選は撤退という体たらくぶりでした」(同)
では黒岩陣営が一枚岩で盤石であったかと言えばそうではなかった。
「3期12年でこれといった功績が見当たらず、評価は必ずしも芳しいものではありませんでした。前期は良くも悪くもコロナ対策で各県の知事が顔と名前を売る中、黒岩さんは有効な対策を打ち出せたわけではないどころか、20年3月のいよいよコロナが大々的に蔓延しようというタイミングでは、医療従事者を応援しようと『がんばれ!!コロナファイターズ』というキャンペーンを展開したところ、『あまりに軽い』と批判されて2週間で撤回したのが語り草になっています。また22年1月には神奈川県を津波が襲うという誤報メールが大量に送られるという騒動がありましたが、この時はツイッターで謝罪した時に、『私自身も寝不足です』と雪印事件を思い起こさせる余計な一文を添えたことで、元キャスターとしてのセンスの無さが露呈しました」(県政記者)
さらにはキャスター時代からのこだわりである、病気になる前の「未病」状態の予防医療にあまりに固執することから、身内の自民党県議からも「足元を見ていない」という反発も招いていたという。
そんな与野党腰砕けの中、無難な黒岩氏に落ち着き、大恥をかきながら結局は圧勝したわけだが、神奈川県という大都市の知事がこんなグダグダな選挙で決まって良いものだろうか。
(猫間滋)