「我々は内政に干渉しない」プーチン大統領が「トランプ起訴」に沈黙する本当の意味

 何も語らないことが、彼を擁護しているというメッセージなのだろうか。

 今月4日、トランプ前大統領が、米国大統領経験者として初めて起訴されて刑事裁判所に立った。きっかけは、同氏が大統領選挙を控えた2016年10月、不貞関係にあった艶系女優出身の女性に対し、弁護士を通じて13万ドル(約1700万円)を支払い、関係を口止めしたとの記事を「ウォール・ストリート・ジャーナル」が掲載。記事が引き金となり、企業文書改ざんなどさまざまな疑惑が噴出。結果、トランプ氏は、本件を含めて合計34件の容疑が適用されるという異例の展開となったわけである。

「むろん、トランプ氏は容疑を全面否認していますが、大統領就任後、弁護士にその13万ドルを弁済した際、名目を『弁護士費用』としたことが、ニューヨーク州法で禁じられている『虚偽記載』に該当することから、弁護士には有罪判決が下されました。ただ、トランプ氏は、司法省が定める『現職大統領は訴追されない』という特権で守られた。しかし、現在は共和党の実力者とはいえ、いわば一般人ですからね。遅ればせながらようやく司法のメスが入ったというわけです」(国際問題に詳しいジャーナリスト)

 トランプ氏起訴を受け、ハンガリーのヴィクトル首相は、自身のツイッターにトランプ氏と握手する写真とともに《大統領、ずっと戦ってください。我々はあなたと共にいます》と文章をアップ。メキシコのオブラドール大統領も5日の会見で「彼ら(米検察)のトランプ前大統領に対する行為に同意しない。選挙のための政治的目的だ」と批判。さらに、エルサルバドルのブケレ大統領もトランプ氏を擁護する発言をするなど、トランプ氏と親交がある国のリーダーらが次々とメッセージを発表。しかし、かつてトランプから「天才」と呼ばれた盟友、プーチン氏は沈黙を貫いたままだ。

「外交には『マッドマン・セオリー』(狂人理論)という手法があり、普通ならありえないような突拍子もない発言や判断をすることにより、交渉相手を譲歩させ、妥協させてしまうというものですが、トランプ氏はこの手法で北朝鮮やイラン、そしてロシアと交渉。結果、攻撃的・挑発的な発言やツイートを繰り返す一方で、実は首の皮一枚というギリギリのところでは戦争を回避し、独裁者たちを交渉のテーブルにつかせてきた。それが、『もしトランプが大統領だったらウクライナ戦争は起きなかった』という主張が一定の説得力をもって語られている理由なんです。つまり、あのプーチン氏をもっても、まったく先が読めない恐ろしい男、それがトランプ氏だったということです」(同)

 沈黙を続けるプーチン氏に代わり、5日にはクレムリン宮のペスコフ報道官が「我々は米国の内政にいかなる方法であろうとも干渉する資格があるとは考えない。逆に米国もロシア問題に干渉する資格はないと考える。したがってこれに対して言及したくない」との声明を発表。つまり、「うちもお前には干渉しないから、お前もうちのことには干渉するな!」というわけだが、欧米メディアの多くは、プーチン氏の暗黙をトランプ擁護と捉えている。

 はたして、今後、トランプ氏の問題についてプーチン氏が口を開くことはあるのか。注目が集まっている。

(灯倫太郎)

ライフ