佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」米大手銀行が連続破綻、日本への影響は?

 今週は緊急企画として、欧米の金融機関の危機について書きたい。年度末を控えて株式市場は大いに荒れた。きっかけはアメリカの2つの銀行の経営破綻。西海岸のIT関連など新興のスタートアップ企業に強かったシリコンバレー銀行、暗号資産に積極的だったシグネチャー銀行が相次いで経営破綻に追い込まれた。

 さらにスイスの大手銀行、クレディ・スイスの経営危機まで金融不安が及んだ。スイスという国は面積的には小さいが巨大銀行が2つもある。その理由は国外の企業や金持ちを相手にしているからで、つまり大手銀行の破綻は、スイス国内だけの話ではない。

 スイスの中央銀行は即日、莫大な資金提供を提示し、もう1つの大手銀行、UBSが買収合併を発表した。当局からの強い働きかけがあったはずだ。それでも市場は金融株を中心に揺れており、経営危機が噂される金融機関の名前がネット上に飛び交っている。

 アメリカの2つの銀行破綻に関しても、バイデン大統領はすぐさま預金者保護を表明した。きっと、08年のリーマン・ショックの二の舞を避けたかったからだ。来年には大統領選を控えていることも大いに影響しているだろう。コロナとウクライナ問題、さらにはインフレ対策だけでも大変だ。何としても金融システム不安は沈静化させたかったはずである。

 そもそも、2つの銀行が経営破綻に追い込まれた理由の一端は、インフレ対策のため、この1年弱の急激な金利の引き上げが影響している。銀行の経営環境が激変すれば、体力が弱く環境の変化に対応できない金融機関は危機に追い込まれる。預金を大量に債券で運用している銀行は、金利が上がると持っている債券の資産価値が下がるからだ。

 例えば毎年0.5%の利息がついて10年後に満期がくるという債券を想像してほしい。100万円の債券を所有していれば年5000円の利息が10年間もらえる。しかし金利が上がって1%になったとしよう。金利が上がってから債券を買う人は毎年1万円の利息がもらえることになり、0.5%しか利息がもらえない債券の価値は落ちる。なぜなら、債券はたとえ10年満期のものでも途中で市場で売って現金化することができるからだ。

 とはいえ、1%の利息がもらえる時に「0.5%しか利息をもらえない債券を買ってくれ」と言っても誰も欲しくない。そこで債券価格を下げないと売れなくなり、流動性が下がる。たとえ満期まで持ち続けるとしても、金利が上がると過去に取引した債券の市場価値は下がり、会計上は損を出す羽目に陥る。つまり市場価値が下がるということは、そういうことだ。

 一般的に銀行は債券も短期で借りて、長期で貸すことによって利ざやを稼ぐことが多い。なぜなら短い期間の金利は安く、長いものは金利が高いことが多いからで、例えば、半年ものの金利0.5%で調達した金を2%の金利で企業に10年間貸すといった具合だ。

 短い半年ものの金利が上がらなければ、銀行は毎年1.5%の利ざやを稼げるが、この1年で金利が急激に上がってしまった。すでに固定金利で貸した分の金利は上げられず、利益が出ないどころか損を出すほどになってしまった。アメリカの銀行が破綻した理由の一端はここにある。

 アメリカの株価が下がれば日本の株価も下がる。欧米の金融機関に不安が持ち上がると、日本の金融機関にも不安を覚える人が出てくるもの。特に昨年後半から爆上げしてきた金融株を中心に、日本の株価も一気に下げた。ひとまず市場は冷静さを取り戻したように見えるが、これで不安はすべて解消されたと考える投資家は少数派だ。

 これから数カ月の金融当局の舵取りによっては、また金融不安が噴出するかもしれない。それを防げないと日本の経済も一気に落ち込むことになる。皆さんもこの経済のニュースに今後も注目していただきたい。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。

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