古市憲寿「正義の味方が実際にいる世界は怖い」/テリー伊藤対談(1)

 朝の情報番組のコメンテーターとしてもおなじみの社会学者・古市憲寿氏。その忖度なしの発言がネットニュースなどに取り上げられ、炎上することもしばしば。そんな氏がこのほど新刊「正義の味方が苦手です」を上梓。炎上コメンテーターの元祖・天才テリーが迎え撃つ!

テリー 新刊の「正義の味方は苦手です」。「週刊新潮」の連載をまとめたものなんですね。

古市 時期的には、コロナの緊急事態宣言とかで慌ただしかった頃から、安倍元首相が銃撃された事件ぐらいまでの、この2年間で書き溜めた文章です。

テリー 正義の味方は嫌いですか。

古市 正義を錦の御旗にして他者を糾弾する人は苦手ですね。コロナの自粛期間中に夜中に開いてるお店だとか、出歩いてる人を糾弾したりだとか。

テリー すごい極悪人みたいな叩き方をしてね。

古市 批判はもちろんあっていいんですけど、もうちょっとみんな冷静になったほうがいいんじゃないんですかっていうことを書いた本ですね。

テリー 何で世論は沸騰しちゃうんですか。

古市 正義感だと思います。例えば「こんな人をのさばらせてはいけない」だとか。炎上って悪意が集まって発生するわけではなく、正義感の発露というケースが多いですよね。でも、それが行き過ぎると危ない。そもそも正義の味方が実際の世界にいたら、怖いなって思いませんか?

テリー というと?

古市 例えば子供向けアニメでヒーローが事件をパンチやキックといった暴力で解決することってありますよね。怖いじゃないですか。それはヒーローが悪いというよりも、その暴力に頼らざるを得ない世界が怖いんですよね。ヒーローが活躍する世界って、きっと警察も裁判所も法律も機能していない。だから正義の味方が暴力を行使して事件を解決したことにする。そんな世界に住みたくないです。

テリー ああ、そういうことか。

古市 今の日本は法律も警察も裁判も完璧とはいえないけれど機能している。それにもかかわらず、正義の味方みたいな人が出てきて私刑(しけい)がもてはやされるのは、ちょっと危険だと思います。

テリー 今は正義の味方が多すぎますか。

古市 そうですね、もちろん正義が必要な場面もあると思うんです。だけどそれは「絶対なもの」ではなくて、ある方向から見たら正義じゃないっていうケースが往々にしてあるじゃないですか。だから正義の味方には、「果たして自分の正義は正しいのか」を内省する必要があると思うんです。そういう検証もなしに「これが正義です」って突き進んじゃうと、危うい世の中になってしまう。

テリー 突き進んじゃうのが、沸騰した状態だ。

古市 そもそも戦争時代がそうだったじゃないですか。日本でも国のために戦うことが大義であり、正義であった。そのせいで国中が暴走して、多くの人が命を落としたわけです。やっぱりその時代にどれだけ正しく見えても、あとから大間違いだったとみんなが認めることがある。正義の味方だと自分で信じている人ほど常に謙虚であってほしいとは思いますね。

(つづく)

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