ロシア軍がウクライナに侵攻した当初、激しい戦闘が繰り広げられたキーウ近郊の町ブチャ。多数の民間人が犠牲になった「ブチャの虐殺」の舞台だが、これに関与したとされるのがロシアの民間軍事会社「ワグネル」だ。
〝プーチンの私兵〟とも呼ばれ、ニュースや新聞でもたびたび報じられているが、会社の創業は2014年と歴史は浅い。同年、ウクライナ東部のドンバス地方やクリミア半島で分離・独立を目指す勢力を支援して一躍その名が広まり、シリアやリビア、マリなどの紛争地帯でも活動している。
「米国防省によれば、現時点のワグネルの戦闘員は約5万人。うち半数はロシア政府に徴用された囚人です。傭兵としてのスキルや経験もなければ、前線で展開する部隊の武器弾薬も足りません。最新の報道では3万人以上が戦死したとも言われていますが、戦闘能力の低さも原因です」(軍事ジャーナリスト)
これに対し、昨年3月に設立された「モーツァルト・グループ」(米国)は、欧米諸国の元軍人で構成された少数精鋭の民間軍事会社。戦闘行為には参加せず、ウクライナ民兵組織の軍事訓練や民間人の救援活動など後方支援を担当するが、彼らの多くは特殊部隊出身者。個々の能力は非常に高いため、〝最強の民間軍事会社〟とも称されているという。
そして、人員数でいえば世界80カ国以上に展開する「G4S」(英国)の従業員数は約65万人。あくまで警備会社で軍事業務は一部門という扱いだが、中東やアフリカの紛争地域での戦闘を伴う警備・護衛にも慣れている。
また、米軍の訓練・演習をサポートする仮想的業務を行う「ATAC」や「ドラケン・インターナショナル」(いずれも米国)も戦闘に直接参加しないが自前の戦闘機を多数保有。もはや民間というレベルではない。
「他にも広大な訓練施設を持つ『アカデミ』(米国)や戦闘員の数はトップクラスの『ガルダ・ワールド』(カナダ)、ナイジェリアで反政府組織ボコ・ハラムの弱体化に大きく貢献した『STTEP』(英国)など実績のある民間軍事会社は数多くあります。世界には約150社の民間軍事会社がありますが、戦闘員の質でいえばワグネルは下から数えたほうが早いでしょうね」(前出・ジャーナリスト)
誇れるのは頭数の多さだけのようだ。