ロシアの対外情報局(SVR)と言えば、米国でいう中央情報局(CIA)に当たる組織だが、そのSVRのトップであるセルゲイ・ナルイシキン長官が、CIAトップのバーンズ長官と「ワグネルの乱」収束後の先月30日、電話会談していたことが明らかになった。
この情報は米ウォール・ストリート・ジャーナルなどが、CIA側の話として伝えていたが、7月11日にロシアの国営タス通信が同様の報道をして裏付けられた形だ。
「バーンズ氏はロシアがウクライナ侵攻を開始してからこの1年、定期的に数回にわたってウクライナを訪れ、ゼレンスキー大統領や情報当局者らと会談してきました。実はワグネルが反乱を起こす数日前にもウクライナを訪問し、ゼレンスキー氏らと会ったというのです。むろんこの時は、プリゴジンの乱など話題にも上らなかったでしょうが、ロシアとしてはまず米国の関与を疑ったはず。なのでバイデン大統領は26日、『ワグネルの反乱には米国やNATOは一切関与していない。プーチン大統領に欧米やNATOのせいにする口実を与えてはならない』と声明を出したのですが、バーンズ氏も改めて『あくまでロシア内部の問題』として、反乱の責任を米国に転嫁させないよう電話で直接くぎを刺したというわけです」(ロシアウォッチャー)
報道によれば電話会談は1時間にも及んだとされ、ナルイシキン氏は「どんな紛争も交渉で終結する。いずれ対面交渉する可能性はあるが、その条件はまだ整っていない」と今後、バーンズ氏と面会する可能性を示唆している。
「実はこの2人、ウクライナ戦争が起こる前にも電話会談しており、侵攻勃発後の昨年11月14日にはトルコの首都アンカラで会っています。ただし、会談前には米国家安全保障会議(NSC)が『ウクライナの戦争の解決については議論しない。ウクライナ抜きでウクライナのことを何も決めないという基本原則を固く守っている』とウクライナ側に説明。会談では、核兵器使用の脅しを繰り返すロシアに対し、核使用の代償とエスカレーションのリスクを繰り返し説明したといいます。2人はその後も意思疎通のチャンネルを維持しているので、おそらくプリゴジン氏の処遇についても、何らかの情報が伝えられた可能性はあるでしょう」(同)
ナルイシキン氏は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で、ベルギー大使館に派遣され「経済担当」の肩書で活動してきた叩き上げの元スパイ。かたやバーンズ氏は、かつて「世界的な指導者の卵100人」に挙げられたこともある、元エリート外交官だ。
CIAとしては、プリゴジン氏が握るプーチン大統領およびクレムリンの情報は喉から手が出るほどほしいはず。彼の動向を巡り、2人の熾烈な情報戦は当分続きそうだ。
(灯倫太郎)