「もしもあなたにもうひとつ顔があったら─」
こんなナレーションで始まる「ヤヌスの鏡」(85年・フジテレビ系)で二重人格の女子高生を演じた杉浦幸(53)。アイドル女優の知られざる苦悩とは─。
─女優デビューが大映ドラマ。しかも主演ですよ。
杉浦 今では考えられないくらい厳しかったですね。現場に怒鳴り声が響くのはしょっちゅうでしたし、よく覚えているのは厳格な祖母(初井言榮)に物差しでぶたれる折檻のシーン。もちろん本番では叩くフリですよ。でも、ド新人だったので、痛みをうまく表現できなかった。そこで監督の指導が入って、実際にバチーンと叩かれては「そうだ、その顔だ!」みたいな‥‥。コンプライアンスの欠片もなかったですね(笑)。
─ドラマでは高校の優等生が、一瞬にして不良少女に変身。度肝を抜かれました。
杉浦 目を吊り上げるために、こめかみに絆創膏を貼って、その上にパーマがかかったウィッグ(カツラ)をかぶっていました。そのウィッグも最初は髪の毛が肩まであったんですけど、オンエアを見たスタッフから「顔と毛量のバランスが悪い」と指摘があって、4話か5話くらいから短めのボブに変わったんですよ。
─86年1月には「悲しいな」で歌手デビュー。アイドルの「親衛隊」もかなりの武闘派だったとか。
杉浦 当時は非常識なカメラ小僧がたくさんいて、そういう輩を懲らしめてくれたことも。私が地方に行くとお出迎えに来てくれるんです。新幹線のドアが開くと、そこにズラッと並んでいて「お疲れ様です!」って。どこかの姐さんじゃないんだから(笑)。
─歌にドラマに大活躍。かなり忙しかったのでは?
杉浦 睡眠時間はいつも1時間か2時間。周囲からは「かなり稼いでるんでしょ?」みたいな目で見られましたけど、当時は月給制で、同級生のほうがアルバイトで稼いでいましたよ。
─86年秋にはドラマ「この子誰の子?」(フジテレビ系)で主演。レイプで望まない妊娠をするというショッキングな展開で‥‥。
杉浦 ちょうどその時、映画「湘南爆走族」(東映・87年公開)と並行して撮ってたんです。「この子─」はかなりシビアな役柄で、一方の「湘爆」で演じるのは、ハッチャけた女子高生。現場の掛け持ち自体は平気だったんですけど、演技の切り替えがとにかく大変。そのせいか、織田裕二さんと江口洋介さんの〝湘爆コンビ〟とキャンペーンであちこち行ったはずなのに、まったく記憶がないんです。でも、丸川角児役の村澤寿彦さんとはずっとお友達で、今は「幸&むらさーの月曜から乾杯!」(レディクロ)というインターネットラジオで毎週ご一緒してます。
─「この子─」の相手役・岡本健一(53)のファンからは陰湿な嫌がらせがあったとか。
杉浦 事務所に届いたファンレターは、段ボールでまとめて自宅に送ってもらってたんですけど、カミソリ入りの手紙どころか、封を切ったらゴキブリの死骸が出てきたことも。何もそこまで嫌わなくても‥‥って、すいぶん落ち込みましたよ。
─大手事務所からの退社や休養、パチドル活動を経て、21年にはデビュー35周年を迎えました。
杉浦 1月27日のデビュー記念日にライブを予定しています。本来は21年に開催したかったのですが、コロナの影響で3回も延期になって‥‥。だから「35th+2」と銘打って、ライブ配信も行います。50代になっても元気にやっていけるところをお見せしたい。パワーのお裾分けができればいいな。
*週刊アサヒ芸能1月19日号掲載