正月早々、朝鮮中央通信を通じて「核爆弾保有量を幾何級数的に増やす」と、今年も核兵器の量産を基本方針とする国防戦略を示した北朝鮮の金正恩総書記。その北朝鮮で再び、金総書記の就任直後にあった、あの「見せしめ的粛清」が復活するかもしれないという。
1月4日、読売新聞が、かつて米・トランプ前政権との非核化交渉にあたった北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)元外相が、昨年処刑されたとみられる、というショッキングな記事を掲載した。
記事によれば、李元外相は北朝鮮を代表する米国通の外交官で、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の首席代表も歴任した、いわば北朝鮮における外交の重要人物だった。
「読売によれば、粛清時期については不明とするものの、おそらく、昨年夏から秋ごろにかけて行われた可能性があると推定しています。また、粛清されたのは李元外相だけでなく、在英国北朝鮮大使館の勤務経験がある外務省関係者が4、5人含まれていると伝えています。事実であれば、背景には同大使館に関係する何らかの問題が考えられます。このところ北朝鮮では粛清のニュースは聞かれませんでしたが、これを機に再び粛清の嵐が吹き荒れる可能性もあることから、韓国の情報機関では確認作業に躍起になっているといいます」(全国紙記者)
朝鮮中央通信によれば、李氏が外相に就任したのは、2016年で、退任する2020年まで4年に渡り、北朝鮮の外交を担ってきた。
「2016年といえば、在英国北朝鮮大使館に務める太永浩公使(当時)が韓国に亡命。国際社会で大きな注目を集めた年でした。読売の記事には、処刑された外交官の何人かは、粛清される可能性を周辺に漏らしていたとする記述もあることから、おそらく、この時期に何かがあったのでしょう」(前出・全国紙記者)
北朝鮮ではかつて、金総書記による前代の実力者に対する『見せしめ式粛清』が頻繁に行われていた時期があり、2012年7月には、父親である金正日氏の部下だった李英浩・軍総参謀長が反革命分子として粛清され、翌13年には叔母の夫、張成沢氏も軍事裁判により「国家転覆陰謀行為」を犯したとして死刑に処されている。
「金氏はその後も、玄永哲・人民武力部長を『会議で居眠りしていた』という理由で処刑。さらには、『会議での姿勢が悪い』という理由で、金勇進・副首相らを火炎放射器などを使った極めて残忍な方法で次々に処刑しています。恐怖政治により規律引き締めを図った、というのが背景にあるようですが、このあまりにも強引なやり方を目にした、多くの北朝鮮エリート層が距離を置いてしまった。結果、やや恐怖政治が緩和された現在の『回転ドア人事』(忠誠競争をあおるため解任と降格と再信任を繰り返す)が定着したとされます。もし、再び粛清を前面に出して『恐怖政治による引き締め』を行い始めたとすれば、前回と同じことが起きる可能性があり、外交力はいちだんと低下、加えて、いよいよ経済は逼迫することでしょう」(前出・全国紙記者)
餓死者が続出する中、今年もミサイルを打ち続けると表明した金総書記。その独裁ぶりは今年もさらにエスカレートしそうだ。
(灯倫太郎)