ロシアで空前の「スパイ・ゾルゲ」ブーム! プーチンが進める「愛国主義」の産物とは

 ポーランド東部へミサイルが着弾し市民2人が死亡した問題について、関与を否定したロシア。ロシア大統領府はまた、この問題でバイデン米大統領が「ロシアからのものである可能性は低い」との見解を示したことについて、「米国側の抑制された、よりプロフェッショナルな対応に注目すべきだ」と、珍しく称賛の意を表している。

 さて、このところ武器弾薬の枯渇と深刻な兵士不足で、対ウクライナ戦での劣勢が伝えられるロシアだが、そんなロシア国内では、愛国主義を鼓舞する狙いで、ある人物を祭り挙げる一大ブームが起こっているという。

 戦前の日本で暗躍した旧ソ連のスパイ「リヒャルト・ゾルゲ」だ。

「ゾルゲは1933年にドイツ紙記者を装って東京に着任。在日ドイツ大使館に太いパイプを築き、盟友だった朝日新聞記者の尾崎秀実らの協力のもと、ドイツ軍のソ連侵攻や日本軍の機密情報をモスクワに打電するなど、8年間に渡り諜報活動を展開した伝説のスパイです。しかし、日米開戦前の41年10月に逮捕され、44年11月7日に尾崎と共に処刑された。その亡骸はいまも東京西部の多磨霊園に眠っています」(全国紙記者)

 旧ソ連国家保安委員会(KGB)のスパイだったプーチン氏は、2000年出版の回想録で「スパイ映画を見てKGB入省を志した」と記していたが、2020年10月の誕生日に行われたタス通信とのインタビューでは、「高校生の頃、ゾルゲのようなスパイになりたかった」と実名を明かし、話題になったこともある。

「プーチンは柔道を通じて日本に関心を持ったとされますが、KGBの情報員として旧東独のドレスデンに駐在した彼にとって、日本で活動し膨大な機密情報を集めたドイツ人スパイ、ゾルゲはまさに憧れの存在だったようです」(同)

 祖国を救った英雄の評価は近年とみに高まり、2016年に開通したモスクワ地下鉄中央環状線の新駅は「ゾルゲ駅」と命名。ウラジオストクを含むロシア全土50カ所に「ゾルゲ通り」を建設。また、各地でゾルゲの銅像の建立ラッシュが続いているというから驚くばかりだ。

「2019年には、国営テレビが『ゾルゲ』という歴史ドラマを全12回で放映し、大きな話題になりました。同作は、ゾルゲが日本で行った諜報活動から逮捕・処刑に至るまでの半生を描いたもので、ウクライナ・オデーサ出身のセルゲイ・ギンズブルグが監督を務め、7億円の巨費が投じられた一大巨編。プーチンはゾルゲを愛国のシンボルとして重視しており、こうしたゾルゲブームの背景には愛国主義の高揚という狙いがあることは明らか。ウクライナへの軍事侵攻により経済制裁を受け、国際的孤立が深まる中、命をかけて国のために情報工作を行ったゾルゲの忠誠心を美化することで、改めて愛国主義を鼓舞したい。それこそ、プーチンがいま『ゾルゲ』に入れ込む最大の理由だと思われます」(同)

 ドラマ「ゾルゲ」は、邦題「スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ」として来年2月より、新宿K’s cinemaで公開される予定だ。

(灯倫太郎)

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