11月2日、カタールW杯に出場する日本代表26名が発表された。サプライズと言えるメンバー選考はなかったとはいえ、森保一監督らしい選考だと思う。
「らしい」と書いたのは、先月の天皇杯決勝のハーフタイム、試合中継内のインタビューで森保監督は、「自分の武器を持っていながらチームのため仲間のために戦える選手を選びたい」と言っていたからだ。
実は、この言葉と同じようなことを2018年の9月、森保ジャパンが誕生した最初の練習の後にも言っていた。そのときは、
「チームのために、そして仲間のために走って戦ってくれる選手が集まってくれた」
つまり、森保監督の選考の基本というか、森保監督のサッカーのベースはそこにあるといっていいのだ。
なぜ、そこにこだわるのか。それは森保監督の現役時代にある。当時、ボランチはディフェンシブ・ハーフと呼ばれ、守備的MFで地味なポジションだった。
オフト日本代表時代も、カズやラモスといった攻撃の中心選手を後方から支えていた。特に30歳を超えていたベテランのラモスに対しては守備の負担を減らすために走りまくり、黒子に徹していた。前線の選手がストレスなく気持ちよくプレーできるようにするのが自分の役割だと思っていた。それが監督となった今でも選手に求めていることだと思う。
この考え方は今回のメンバー選考にも生きている。大迫勇也が外れたこともそうだ。アジア予選では試合の主導権を握れるポストプレーヤーの役割は大事になってくるが、W杯本番の格上相手には守ってカウンターのサッカーをしなければいけない。そういうサッカーではポストプレーヤーの大迫が前線で孤立してしまう。だから外されたのだろう。
もう1人、セルティックの古橋亨梧も外れた。代表で16試合に出て3点と結果が出てないというのもあるが、同じセルティックの前田大然(代表8試合で1得点)は選ばれている。では、前田が代表入りしたのはなぜか。前田は9月のアメリカ戦で先発し、前半の45分間だけ出場した。前線でボールを追いかけ、それも2度、3度と追ってスプリントを繰り返した。前田の動きを伊東純也、鎌田大地、久保建英が揃って「彼の守備に助けられた」と口にした。森保監督も「守備のスイッチになってくれた」と言った。点は取れていないが、チームのため仲間のために自分を犠牲にできる選手なのだ。
また、浅野拓磨の選出についても、ケガからの復帰はギリギリと思われていた。それでも選ばれたのは、アジア予選のときに浅野は、「試合に出なくてもチームのためにやれることはあります。だから代表に呼んでください」と言ったからではないか。
今まで、選手選考や戦術でメディアや評論家に叩かれることが多かった森保監督だが、最後のメンバー選考でも自分の考えを貫いた。W杯開幕まで約2週間、本番でどんな結果を出すのか、今から楽しみだ。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。