入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈タクシードライバー〉(2)平日の午前中は客単価が高い

 さて、タクシー業務最大のメリットは「人間関係を気にせずに済む点」だ。

 通常の仕事と異なり、会社の上下関係はほぼない。同僚とは情報交換をするので仲良くなりやすい。乗客の機嫌を損ねるとタクシーセンターにクレームが入るケースもあるが、気を遣って運転していれば問題なし。「クレームもらうなチップもらえ」とベテランドライバーも諭してくれた。

 タクシーとは忙しい時間と暇な時間がはっきりしている。平日の場合、午前中は通勤や通院の客で休む暇がなく客単価も高い。昼2時を過ぎると客が減り、単価も3ケタ平均となる。夕方は帰宅客で少し盛り返すが、夜8時から10時まではほとんど客がいないため、休憩したり編集業務に充てることができた。深夜12時を過ぎると電車を逃した客が乗ってくるため一気に忙しくなる。ただし泥酔客も多くなるので、必ずビニール袋を助手席に置いておくようにした。

 慣れてくると無線を積極的に取るようにした。

 無線は迎車料金(平均300円)がもらえる上、深夜の繁華街(特に六本木)だと料金も上がる。こうして仕事が楽しくなると、給料日直後の金曜日は1日3本前後の〝万シュウ〟(1万円以上の客)を乗せることができた。

 デメリットは何よりも事故である。タクシーを始めて半年後、慣れてきた私は六本木で「●●ホテルまで」と言われた。初めて行く場所であり、客も場所がわからない。地図を見ながら運転していると、六本木通りを挟んだ向かいに看板が見えた。慌てた私はとっさに右折をしたが、その際、直進してきたバイクと衝突。幸い相手は1カ月の通院で済んだが、事故の罰金として50万円の督促が来た。会社が10万円を負担してくれたので、40万円を父に借りて支払うことに。

 今思えば「すいません。向かいにありました。ここで停めますか? それとも向こう側まで行きますか?」と聞くべきだった。間違いなく「ここでいいです」と降りてくれたはずだ。仮に迂回しても自腹料金はわずか数百円。

 事故は慌てるほど起こしやすくなるのだ。

*入門マニュアル「シニア再就職のリアル」(3)に続く

後藤豊:1966年千葉県生まれ。20代より野球・競馬雑誌編集者をつとめ、現在はフリーランスの編集&ライター兼タクシードライバー。

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