入門マニュアル「シニア再就職のリアル」〈タクシードライバー〉(3)事故さえ起こさなければ天国

 2年でタクシーを辞めた私だが、今から7年前、紙媒体の売れ行きが下がり、月の3分の2が暇になったため再びタクシーを兼務(月平均8乗務)するようになった。東京に近い家から10分ほどの中小会社は、歩合率こそ低いが二種免許を持っていたため自由出勤となり、忙しい週末中心の出勤で編集業務が多忙だと休みがちになった。コロナで売上が下がった2年前は半年間休み続けたこともある。

 ところで、タクシーの金銭面は「完全歩合」だ。1日の売上高に応じて手取りの率が変わってくる。現在勤める会社では次のように定められている(金額は税抜き)。

・3万6000円以下 45%

・3万6000円〜4万円未満 50%

・4万円〜4万5000円未満 52%

・4万5000円以上 53%

 税抜き3万6000円(税込3万9600円)以下だと手取りは1万6200円。4万5000円(税込4万9500円)を売り上げれば2万3850円となる。「売り上げるほど手取りも増える」わけだ。

 一方、大手では最高歩合率が平均60%になる。仮に1日8万円(税抜き)売り上げた場合、大手だと60%=手取り4万8000円。対して私の会社は同4万2400円。1日5000円以上違うため、月給にするとかなり少なくなる。

 それでも勤務しているのは、大手会社は規律が厳しく、中小会社は緩いためだ。大手は3時間動かずにいると携帯や無線で連絡が来る。「死んでいるかも」と想定されるためだ。また、稼いでこない運転手には「もっとやれ!」と、管理者が小言を言ってくる。

 これに対し、私の勤める会社は10時間ほど休んでいても何も言われない。回送にして私用に使っていてもノープロブレム。最近はガソリン代が高いため早朝草野球の足替わりとしている。いわば好きに働けるため、歩合率が低くてもストレスを感じず、兼務としては最高の職場だ。年金をもらいながら働いている運転手は「事故さえ起こさなければ天国だ」と語っていた。

 稼ぎたいなら東京の大手会社、のんびりやりたいなら地方都市の中小会社がいいだろう。

 タクシードライバーは自分で給料目標を立てられるのもメリットだ。バリバリ仕事をする大手勤務ドライバーの月給は、多くて50万円ほど。逆にのんびりドライバーは20万円前後。ただしバリバリドライバーは事故も起こしやすく、人身事故補填が月に5万円引かれるケースも。死亡事故など起こしたら運転人生も終わりとなる。「慌てずに運転する」のが何より肝心だ。

 最大の魅力はチップ。会社の金で乗るサラリーマンがメインの東京都心は現在、カード払いが多くチップも少ない。だが、高齢の現金客がメインの地方都市では多くて、1日平均1000円ほどいただける。同僚の美人ドライバーは「平均で年間20万円もらっている」そうだ。

 ちなみに、タクシーを時給換算すると、昼間が1000円前後、夜は2000円ほど。1年で最も忙しい年末の夜は3000円以上になる。

 最後に。タクシー乗務には、数多くの面白いことや我慢すべきこと、発見などがある。好奇心旺盛なシニアにとっては楽しい職業だと断言できる。

後藤豊:1966年千葉県生まれ。20代より野球・競馬雑誌編集者をつとめ、現在はフリーランスの編集&ライター兼タクシードライバー。

*「週刊アサヒ芸能」9月22日号掲載

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