村上宗隆「令和の最強三冠王」への道【1】「全盛期の王ばりの対策が必要」

 22年のペナントレースもいよいよ佳境を迎えている。今季は投高打低が目立ったが、それを払拭すべく若き燕の大砲が異次元の打撃タイトルにリーチをかけている。その実力を紐解けば、歴代の偉業達成者たちのいいとこ取りをする〝ハイブリッドスラッガー〟の片鱗が顔を覗かせているのだった。

 大投手を「怪物」と称するならば、さしずめ村上は「化け物」か。ヤクルトの主砲・村上宗隆(22)が異次元の打撃を披露している。野球評論家の伊原春樹氏が諸手を挙げて絶賛する。

「ヤクルトがセ界を独走できるのは村上のおかげですよ。負け試合であっても、己のバット一振り、それでも足りなければ二振り、三振りとスタンドまでボールを飛ばして、強引に試合をひっくり返してしまう展開もありました(7月31日阪神戦で3打席連続本塁打。次の試合で5打席連続本塁打の記録更新)。しかも、今季はホームランに加えて、しぶとい単打を放つ勝負強さも目立つ。7月の月間打率は4割を超えていましたが、もはや、ストライクゾーンで勝負していいレベルの選手ではありませんよ」

 打率3割2分9厘、45本塁打、111打点(8月24日時点、以下同)。ホームランと打点の2部門で2位以下を大きく引き離し、20日には打率でもDeNA佐野恵太を追い越しトップに躍り出た。おのずと松中信彦(ダイエー)以来となる、18年ぶりの「三冠王」誕生への期待は高まるばかりだ。

「歴代の三冠王と比べても村上の広角三方向にホームランを打つ技術は群を抜いています。王貞治さんや野村克也さんは引っ張り専門のプルヒッターで逆方向のアーチは稀。落合博満はアウトコースのボールを逆らわずにライトスタンドまで運ぶ技術がありましたが、三冠王を獲得したシーズンはいずれもロッテ時代。イチャモンを付けるわけではありませんが、当時の本拠地・川崎球場は両翼90メートルに満たない狭さでした。その点、村上はどの球場も関係なく逆方向のレフトスタンドにブチ込んでしまいます」(伊原氏)

 そればかりか、悪条件にも屈しない。左打者泣かせの浜風がホームランを阻む甲子園で5本、フィールドの広さとフェンスの高さに特徴のあるバンテリンドームでは7本塁打を記録。弱冠22歳にしてすでに歴代トップの域を脅かす様相なのである。在京球団スコアラーもこれにはお手上げの様子で、

「一時期、徹底的なインサイド攻めが有効とされていましたが、5月以降の効果は今ひとつ。しかも、最近の村上の注目度はチーム内外問わず球界全体に波及しているため、手元が狂ってブツけようものなら大バッシングとなりかねない。結果的に、外角に外しきれないか内角に甘く入ってしまい痛打を浴びる繰り返しとなっている。あるセ球団のスコアラーは、試合前のミーティングの場で『全打席申告敬遠するべき』と真顔で進言して首脳陣に叱られたそうです」

 まさに相手が投げるコースも見当たらない無双状態。野球評論家の江本孟紀氏は「全盛期の王さんばりの対策が敷かれるでしょう」と指摘しながらこう続ける。

「当時は、満塁でも4点取られるよりは1点で済むほうがマシと考えて、塁が埋まっていようがいまいが関係なく歩かせる采配がありました。村上の場合も同じで、優勝争いをするチーム同士の対戦では露骨に勝負を避けられるシーンが増えるかもしれません」

 でなければ、打球はスタンドの遥か彼方に消えるのみというわけである。

*村上宗隆「令和の最強三冠王」への道【2】につづく

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