今年の2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻から半年が経過しようとする20日、プーチン大統領の盟友でその「頭脳」とも呼ばれるアレクサンドル・ドゥーギン氏の娘、ダリア・ドゥーギン氏(29)がモスクワ郊外で爆殺されるという衝撃的なニュースが報じられた。
父ドゥーギン氏は長年に渡り、ロシア語圏やウクライナを含む国々を統一し、新たな大ロシア帝国を作るべきだと主張してきた人物。プーチンの拡張主義的な外交政策には、彼が97年に書いた著書『地政学の基礎—ロシアの地政学的未来』が、その土台になったとも言われている。
「ロシア国営タス通信によれば、娘のダリヤは1992年生まれ。モスクワ国立大学で哲学を学んだのち、ジャーナリストとして活動をはじめ、数年前からは『統一世界インターナショナル』というウェブサイトの編集長を務めていたのだとか。また、定期的に右派テレビ局に出演し、ロシアのウクライナへの軍事行動を正当化していたことで、父親同様、英米両国から制裁対象だったとされています」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
地元メディアによれば、当日、ダリヤ氏は父ドゥーギン氏とともに文化フェスティバルに出席した帰りで、車はドゥーギンのものだったが、直前になって搭乗する車を変更。そのため今回の襲撃の標的はドゥーギン氏だったのではないかとの憶測も流れている。捜査当局によれば、爆発の原因は車に仕掛けられた爆弾。彼女が乗っていたのは、トヨタの「ランドクルーザー プラド」だった。
この事件を受け、クレムリンは今回の自動車爆発事件は「ウクライナの仕業だ」と主張。一方のウクライナは「言いがかりだ」と関与を否定していたが、そんな中、ウクライナで亡命生活を送るロシアの元下院議員が、この事件はロシア国内の反プーチン勢力「国民共和国軍(NRA)」が企てたものだと指摘し、ロシアの国内外に大きな波紋を広げている。
「発言の主はロシアの元野党議員で反体制派として国外追放されたイリヤ・ポノマリョフ氏。同氏は首都キーウで自身が開設した反プーチン放送局『フェブラリー・モーニング』に出演し、『この攻撃はプーチンイズムに対するロシア人によるレジスタンスの新たなページとなった』として、車爆破はNRAによるものだと断定。NRAはドゥーギン氏に限らず、プーチン政権中枢にいる人物を狙った攻撃を次々と仕掛ける準備を進めており、『ここ数カ月、ロシア国内では、ほかのゲリラ活動も展開している』と述べています」(同)
事実、その後、NRAは犯行声明を出し、その中で「プーチン大統領が民族戦争を起こし、ロシア兵を無意味な死へと追いやった軍事犯罪者だ」と批判している。
突如、表舞台に現れた反プーチン勢力の存在。ついにロシア国内で内乱が勃発するのか? プーチンにとって盟友の娘の殺害というショッキングな事件で、ロシア内外の情勢がさらに混迷を極めそうだ。
(灯倫太郎)