テリー ロシアのウクライナ侵攻が長引いてますよね。これ、どういう形になれば終わるんですか。ウクライナが降伏することはないでしょうし、ロシアも絶対に撤退しないですよね。
石破 結局「外交」は「内政」の延長で、「戦争」は形を変えた「外交」ですよね。だとすると、争いを終わらせるには、ロシアはロシア国内に向けて、ウクライナはウクライナ国内に向けて説明がつく、お互いが国内で納得できるものが必要だと思います。この矛盾する命題をなんとか両立させることが必要です。
テリー そうですよね。どんな形があるんだろう。
石破 昭和20年に日本がなんとか終戦に持ち込めたのは、もちろん昭和天皇の玉音放送があったからなんだけど、ポツダム宣言の中に「体制が国民の意思によって決せられる」という一文があったんですよね。それは練達の外交官であれば「天皇制は守られるということなんだよね」という確信があったわけですよね。当時の軍部の中には、「広島と長崎に原爆が落ちてもまだ戦う」っていう人がいっぱいいたわけだから、その一文がなければ終わらなかったと思うんですね。今までのどんな戦争も、その国のメンツが立つ形にしないと終わらなかったんだと思います。
テリー 今回のウクライナを見て、「いずれ中国が日本に攻めて来るんじゃないか」と心配してる人も多いですよね。中国が台湾に侵攻した段階で、自衛隊は動くんですか。
石破 平和安全法制の中で、台湾に中国が侵攻したということを「ほぼ日本有事に等しい国家存立危機事態」と認定すれば自衛隊は動けます。
テリー つまり、日本の有事だと認定されればということですよね。その認定は誰がするんですか。
石破 日本有事とは違います。限定的な集団的自衛権の認定です。これは内閣が判断して、国会の事後承認が必要です。
テリー そうするとね、国会って世論を見るじゃないですか。中国が台湾を攻めてる段階で自衛隊が出て行くとすると、国民の中に「まだ川向こうでケンカしてるだけなのに自衛隊が出て行ったら、中国が日本に攻めて来るかもしれないから行かないほうがいい」みたいな空気も出てきますよね。
石破 それは変数が多すぎて何とも言えないですけど。中国は何カ月も、あるいは何年も続くような戦はやらないと思うんですね。
テリー 今回のロシアの失敗を見て?
石破 その前からですが、より確信を得たかもしれません。陸続きで補給ができるロシアであのありさまで、まして中国と台湾は台湾海峡を挟んでるわけですから、補給は容易じゃないですよね。攻める側は守る側の3倍の兵力がないと攻められないと言われる中、それを運ぶだけの船が本当にあるのかと。
テリー ああ。
石破 だから、中国は何カ月もかかるような長期戦はやらないと思うんです。むしろ長くても1カ月でカタがつくような、アメリカや日本が「こういう状態になっちゃったら、しょうがない」と判断せざるをえないような状況を作るにはどうしたらいいだろうかということも、中国は考えてると思うんですね。
テリー 決して望む形ではないけど、短期で終わったなら仕方ないかと。
石破 一方で、台湾が中国のものになったら、アメリカはたまったものじゃない。台湾に人民解放軍の基地を造られたら、あそこから艦隊も飛行機も出放題ですからね。
テリー 実は喉から手が出るほど、中国は欲しいですもんね。
石破 だから、仮に中国が台湾に侵攻しても「中国が望むものは手に入りませんよ」ということを示さなきゃいけない。簡単なことではないですが、抑止力というのはそういうものです。
*テリー伊藤対談【4】につづく