ロシアのウクライナ侵攻で、今ではテレビで見ない日はない軍事専門家らの情勢分析や軍事予測。また防衛費の倍増議論など、このところずっとホットな話題であり続けている日本の防衛問題。そんな中、今年の防衛白書が7月22日、閣議決定された。
毎度の反応だったのが、韓国だ。竹島を「我が国固有の領土」としているため、韓国政府は日本の公使を呼びつけ、抗議した。島嶼の領土を巡っては中国も同じだ。尖閣諸島をやはり「固有の領土」としているので抗議するのはいつもの風景。ところが中国の場合、「新たな記述」で「強烈な不満と断固とした反対」を示してきた。中国の台湾進攻に関する記述が現れたからだ。
白書は全514ページ。そのうち台湾情勢に関する「台湾の軍事力と中台軍事バランス」という中国の侵攻の可能性に関する記述は7ページ。全体として見れば少ないが、昨年の3ページと比べれば倍増だ。そしてその中で、台湾の分析を借りる形で進行のプロセスが語られている。概ねこの3ステップだ。
①「演習」名目で中国沿岸に軍を集結させて「認知戦」を行って台湾国民を混乱させると共に、西太平洋に艦隊を結集させて「外国軍の介入」を阻止する。
②「演習から戦争に転換」して、陸・空からミサイル攻撃を浴びせかけて台湾の軍事施設を撃破し、同時にサイバー攻撃で重要システムを麻痺させる。
③海上と上空を抑えて、揚陸、着上陸する。
①はロシアが東部ウクライナの親ロシア派を救出する作戦として侵攻したのと同じだ。SNSで嘘情報を流すなどして「認知戦」を行うことも。②はウクライナ侵攻でロシアが躓いた理由でもある。ロシアはなかなか制空権を奪えなかった。ただロシア軍は作戦を見直し、東部と南部でじわじわ勢力圏を拡大している。ウルライナ侵攻はこの③の段階にある。
「一番大きく異なるのは、ロシアとウクライナは国境を接していますが、中国と台湾は海で隔てられていること。だから端的に言ってアメリカを指し示した『外国軍の介入』をどれだけ遅らせて、その間、いかに早期に台湾を制圧できるか否かということになります」(全国紙記者)
するとその場合、アメリカの救援まで持ちこたえられるだけの軍事力を台湾が有しているかが重要になり、この点についてもこうまとめられている。
①陸軍の兵力は中国が圧倒するが、着上陸能力は現在は限定的。
②海・空軍は兵力で中国、質で台湾が優勢な部分はあるが、中国が補いつつある。
③ミサイルは数の違いが大きすぎる。
結局、アメリカが大きなアクションを起こさない限り、台湾は長くは持たないだろうと想像されるが、その時、日本はどんな決断を迫られるのだろうかは依然として不明なままだ。
(猫間滋)