ヤクルトが7月2日に史上最速の優勝マジックを点灯させた。まだシーズンは50試合以上も残ってるし、他の5球団があきらめる時期ではない。もともとマジックと称される由来は手品のように、ついたり消えたりするから。とは言っても、ヤクルトの優勝確率が90%以上であることは間違いない。村上を中心とした打線は豪快なだけでなく、点の取り方もうまい。守備面でも高津監督が安定感抜群のリリーフ陣を酷使しないよう、うまいことやりくりしている。接戦に強いし、逆転勝ちも多い。消耗戦となる夏場を迎えても落ちてくる要素は見当たらない。
交流戦前はここまでの独走状態になるとは予想しなかったけど、やっぱり村上の爆発的な活躍が大きかった。6月の月間成績は、打率4割1分、14本塁打、35打点。まさに手がつけられない状態で、本塁打と打点は独走状態になっている。打率も3割を超えており、2004年の松中信彦(ダイエー)以来の三冠王も狙える位置にいる。
今季まだ高卒5年目にもかかわらず、ほんまにすごい打者になった。同じ高卒の左打者でメジャーでも活躍した、松井秀喜の5年目(打率2割9分8厘、37本塁打、103打点)と比較しても、村上のほうが上をいっているのとちゃうかな。まだまだ成長しそうやし、球史に名前を残す打者になるのは間違いない。
打席でのあの「ドッシリ感」はなかなか出せない。今年はセンターからレフトの逆方向への大きな当たりが増えてきた。下半身をしっかり使って体全体で打っているから、逆方向への打球も失速しない。三振も多いけど、不細工な三振は少ない。完全にタイミングを外されて、バットから手を離すようなスイングではない。空振りする時でも自分のタイミングでしっかり振れている。
当然、相手バッテリーは勝負を避けたくなる。交流戦明けの最初のカードとなった広島戦でも、えげつない内角攻めをされていた。三冠王を狙うような打者やから死球覚悟の厳しい攻めは仕方がない。阪急時代の同僚のブーマーも内角攻めに泣かされていたけど、それを克服して84年に三冠王になった。
村上も三冠王になるためには内角攻めで自分の打撃を見失わないこと。それとボール球を振らない我慢が大切になってくる。考え方としては1試合1四球なら4打席の計算で3打数1安打の打率3割3分3厘、2四球なら2打数1安打の打率5割。首位打者は安打数の勝負じゃなく、確率の勝負やから、焦ってボール球に手を出す必要はない。でも、確率やから数字が悪くなることがあるのがやっかいなところ。盗塁王争いと同じように、本塁打や打点の足し算の勝負のほうが数字が減らない安心感がある。僕も首位打者争いの経験があるけど、シーズン終盤になってきたら相手の数字が気になってくる。村上としたら本塁打、打点はセーフティーリードを保った状態で首位打者争いとなるのが理想的な展開やろな。
見るからに頑丈な体で、6月24日には332試合連続先発4番出場の球団記録も作った。何より偉いのが痛い、痒いを言わないこと。22歳ながらチームの顔としてふさわしい。ヤクルトは優勝に向けて死角が見当たらないけど、村上もタイトルなしで終わるとは思えない。早くもセ・リーグのMVPは決まりかな。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。