「吉田拓郎と井上陽水」それぞれの引き際(1)陽水は家族と離れ一人暮らし

「今日までそして明日から」で前向きに生きる力を歌ったのが吉田拓郎、「傘がない」で心の内面を抉り、魂を揺さぶったのが井上陽水。「太陽と月」のように相反する力で70年代から多くの若者を牽引した2人だったが、その長い旅路もついに終着地へと向かっているようだ。相次ぐ「消息報道」から見えてきた「音楽革命児」の引き際とは。緊急連載でお届けする!

 まるで、示し合わせたかのような「消息報道」だった。片や吉田拓郎(76)は6月25日、突如「LOVELOVEあいしてる 最終回・吉田拓郎卒業SP」(7月21日放送・フジテレビ系)を最後のテレビ出演とすることを発表した。

 芸能デスクが解説する。

「拓郎は6月29日発売の『ah─面白かった』をラストアルバムとし、芸能活動に終止符を打つことを自身のラジオ番組で表明していた。年齢的にもツアーを行う体力的な余裕はなく、数多くのステージパフォーマンスの伝説を見てきたファンには、残念ながら熱唱する姿は見られないままになるかと思われていた。その最後の花道として、かつて自らが司会を務めた音楽番組を選んだようです」

 ラストアルバムには、番組で共演していたKinKi Kidsの2人に加え、古くからの盟友である小田和正(74)もレコーディングに参加し、拓郎のフィナーレに花を添えているというのだから、その決意のほどがうかがえる。

 音楽プロデューサーが打ち明ける。

「昨年から曲作りを始め、『天から降りてくる』とばかりに作詞・作曲、アレンジのインスピレーションがスラスラ浮かんだといいます。それでも当初予定していた秋の発売を前倒しにしたのは自身の体調がかなり不安で、『体力の限界』だったのが実際のところ。さすがに年内引退の意思を固めたようです」(芸能デスク)

 現在、月1放送中のラジオ「吉田拓郎オールナイトニッポンGOLD」(ニッポン放送)も残す6回で終了予定というから、往年の拓郎ファンならずとも残された拓郎の雄姿を目に焼き付けておくカウントダウンが始まった、と言えそうだ。

 音楽界には70歳の壁でもあるのだろうか、その消息が案じられるもう1人が井上陽水(73)だ。去る6月23日には「NEWS ポストセブン」で「井上陽水が進める引退への準備 個人事務所の社長は辞任、連絡が取れない状態か」と報じられたばかりだが、芸能デスクによれば、

「19年にデビュー50周年記念ツアーを行ったのを最後に表舞台から姿を消しています。事務所社長を陽水から引き継いだ長男が行方不明説こそ否定したものの、福岡で暮らす妻・娘家族とは離れて都内で単身一人暮らしという隠遁生活を続けているようです」

 くしくも加山雄三(85)が12月の豪華客船ライブで、高橋真梨子(73)も最後の全国ツアー、と大御所ミュージシャンが相次ぎ年内で芸能生活の幕引きを発表する中、70年代の音楽シーンを牽引した2人が、くしくも同時期にその去就で時の人となった感があった。

 音楽評論家の富澤一誠氏も衝撃を隠せない1人だ。

「拓郎はただの歌手ではなく若者のヒーローだった。『お前ら、俺のように好きに生きていいんだ』と生き様に魅せられ、多くの若者も『自分も何かしなくちゃいけない』と触発された。私自身も20歳で『今日までそして明日から』を聞いて大学を辞めた。その影響を受けた者からすると、果たしてこの終わり方でいいのかとも思うが、逆説的に後はお前らが勝手に考えろ、という投げやりなのが拓郎風なのかもしれない」

 と、いまだ突然の幕引きを正面から受け止めきれない様子なのだ。

 拓郎はラジオで自身を「シャウトを使うソウル系シンガー」とし、そのシャウトが十分にできなくなったことを引退の理由の1つに挙げている。

「確かに『落陽』のように全存在をかけて熱唱する楽曲は最近のライブではほとんど歌われていません。70年代の名曲を歌わないのか歌えないのか、その期待にはもはや応えられないということなのでしょう」(富澤氏)

 もはや拓郎のゴールは目前、サイコロで振り出しに戻る旅ではないのだ。

*「吉田拓郎と井上陽水」それぞれの引き際(2)につづく

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