冷酷すぎて大泉洋も嘆き節「鎌倉殿の13人」識者が注目する“頼朝の死に方”

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が前半のクライマックスを迎えつつある。視聴率も10%台中盤から後半をキープしていて、前半の山場に向けてさらなる盛り上がりが期待できそうだ。

 もっとも、これまでの好調ぶりを支えた立役者は、主人公の北条義時より源頼朝のようだ。その冷徹ぶりがたびたび話題となり、放映直後にはネット上でダークな頼朝を非難するキーワードが急上昇する。6月19日放映の第24回では、娘の大姫を無理やり入内させようとして病死させてしまったうえに、ついに異母弟の頼範を暗殺してしまった。
 
 頼朝を演じる大泉洋も、MCを務めるNHKの音楽番組『SONGS』内で、つい「NHKのせいでどんどん評判が下がっている」と自虐とも恨み節ともとれるコメント(6月2日放映)。もちろん、大泉一流の“グチ芸”なのだが、視聴者のなかには“大泉=頼朝”というイメージで見てしまう人もいるのかもしれない。

 源頼朝とは、本当にそんな冷酷無残は人物だったのだろうか。

「たしかに、一般的には情の薄い冷ややかな人物というイメージが強いですが、それは後世に書かれた物語的なものによるところが大きいと思います。鎌倉時代の史実を記す史料は少なく、同時代に書かれたいわゆる一次史料に頼朝の人物像を示す記述は見当たりません」(歴史雑誌編集者) 

 頼朝といえば、日本初の武家政権を樹立した鎌倉幕府の初代将軍。新たな世をつくるために、ときには自らに冷淡な振る舞いを強いることも必要だっただろう。ただし、兄弟といっても当時の武士はあちこちに子どもがいるのが珍しくなく、会ったことのない兄弟同士も多かったので、義経の件しかり、家族のような情はもともと希薄だったかもしれない。「一所懸命」という言葉の語源どおり、当時の武士は“血の絆”より自分の領地を守ることに命がけだった。
 
 前出の編集者は、ドラマにいちいち目くじら立てる野暮はしたくないが、と前置きしたうえでこう続ける。

「大姫の許嫁・義高(木曽義仲の嫡男)の誅殺も、頼朝が鬼に徹して決断したとは史実として確認できません。また、異母弟・頼範の暗殺も、ずっと後世に書かれた年代記のみにあるだけで、死因の詳細は不明です。まあドラマですのでエンタテインメントして楽しむ分にはいいのですが、頼朝の冷酷さがちょっと誇張されすぎていて、そのイメージだけが先行してしまうのは、頼朝好きの私としては悲しい気がしないでもありません。念のために言えば、暗殺者・善児は完全に架空の存在です」

 ちなみに、比較的信頼性の高い史料としてもっとも用いられるのが、1300年ごろに成立した『吾妻鏡』だが、これもすでに鎌倉幕府の実権を握っていた北条得宗家関係者によって編纂された、いわば官製の歴史書。露骨な源氏批判こそないものの、当然ながら北条氏に有利な記述が多い。その『吾妻鏡』が、頼朝の死についてじつにあっさりと落馬によると記しているところが、逆に怪しいのだが…。

「間違いなく大河ドラマでは暗殺と描かれるでしょう。誰がどのような経緯で決断し誰がどう実行するのか、三谷脚本が楽しみです。ちなみに最近の学説では糖尿病説が――いや、やめましょう」(前出・歴史雑誌編集者)

 まあ、ここは陰の主役・頼朝の死にざまを楽しんでみようではないか。

(加賀新一郎)

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