これほどさまざまな問題が山積しているにもかかわらず、今回の基準値引き下げで降圧剤使用に拍車がかかることは間違いない。近藤氏は怒りを込めてこう語った。
「信頼できない米国の研究結果に右へならえで健康な人たちの治療目標まで変更したことは、米国に見習うという口実のもとで、日本独自の『患者増産策』に出たと考えていい。今回のガイドライン改訂により、日本では以前に増して多数の健康人が降圧剤を飲まされ、転倒やボケ、脳梗塞などの副作用に苦しむこととなり、死亡数もこれまで以上に増えることになるでしょう。つまり今回の改訂は、『キミたちは死んでもいいから、薬を飲んでね』と言っていることにほかならない。実にとんでもない話です!」
ここまで読めば、降圧剤は一日も早く減薬して、最終的には断薬がベストと考えるのが普通だが、実はそこには、大きな問題が横たわっている。
「なぜなら大多数の患者さんが降圧剤を飲まないことに強烈な抵抗を示すからです。長年にわたって『降圧剤を飲まないと大変なことになる』という社会的な刷り込みが強いため、その不安や恐怖が薬をやめる利点を上回ってしまう」(松田氏)
確かに、何もしないのと薬を飲むのとでは、安心感がまったく違ってくる。
「薬害も問題ですが、不安や恐怖のほうがはるかに害を大きくすることもあるわけです。そういう場合は弱い薬を少量使ったり、ビタミンCや副作用の心配がないような漢方薬を処方しています」(松田氏)
では最後に、自分の正常な血圧の基準は、どのように定めればよいのか。
「寝ている時でもいいし、のんびりとテレビを観ている時でもいいので、一日の中で最も低い血圧を見つけてみてください。それが自分の血圧値で、数値が自分の年齢+90以下なら正常と考えて大丈夫です」(松本氏)
どんな病気にも個人差があり、薬にも効果の差や副作用がある。一定の基準や思い込みでそれを捉えてはいけない、という意識を常に持つことこそ長生きの秘訣になるのかもしれない。