「厳正な取り締まりを行う」
岸田首相は6月1日の衆院予算委員会で、野党議員の質問に対し明確にこう答えた。このところひとしきり話題になった、山口県阿武町で起こった4630万円誤送金問題で逮捕された男が、振り込まれた金を決済代行業者を通じてオンラインカジノに投じたとしていた件についてだ。
もちろん刑法185条に「賭博をした者は、50万円以下の罰金または科料に処する」とあるように、日本国内では賭博はご法度(ちなみに常習だと3年以下の懲役)。ただ、競馬や競輪などの公営ギャンブル(公営競技)は社会に資するものとして監督官庁の管理下に置かれて合法とされていて、パチンコ・パチスロは出玉やコインを景品に換えるものとしてゲームの取り扱いだ。だからこれら以外のギャンブルを行えば刑罰の対象になる。
だからこそ誤給付男があっけらかんと「オンラインカジノに突っ込んで全額溶かし済み」と開き直っていたことで、「オンラインカジノって合法なの?」という素朴な疑問が人々に浮かび、存在は聞いていたという人も、実際にやっている人物が現れたことでリアルな話として世間の注目が集まった。そして今回と同様、マネーロンダリングに利用されているということも。
「一般の人が一番疑問なのは、海外のサーバーを通じて合法的に運用されているオンラインカジノを利用した場合、これが犯罪に問われるかどうかでしょうが、やはり違法です。では海外のオンラインカジノ運営者が日本人にサービスを提供するのは賭博開帳に当たるかというと、これを罰する法律が日本にはないので、違法とは言ません。その場合はオンラインカジノの業者が所在している国の法律でこれを禁じているかどうかで、よその国の話になります」(ギャンブル業界に詳しい経済ジャーナリスト)
ただ、今回の容疑は電子計算機使用詐欺で、これは財産の移動で不実な電磁的記録を用いて不法な利益を得た場合のもので、少なくとも賭博が問われたわけではない。でも国内ではご法度なはずの開帳が、オンライン上で大手を振って行われているのは摩訶不思議とも言える。だから野党議員はそのあやふやな状態を突いたのだ。
だからそういった意味では、誤給付男の行為は図らずも、法律の不備や取り締まりの不足、世間の認知で大きく一役買ったことになる。言ってみれば、一国の首相から取り締まりの回答を引き出したのも彼あってこそとも言えるのだ。
しかも日本ではカジノの設置候補としてで、4月28日の都道府県からの申請締め切りに大阪府と長崎県が手を挙げたところだ。現在は政府の有識者委員会に計画案の審査が委ねられ、秋以降にも国交大臣が認可を下すか下さないかという段階にある。いっそ、根本的な整理が必要な時だ。
もっとも今回、野党議員が質問をしたのはそういったタイミングを見て取り締まりを求める意図もあって、首相もこれに応じた。やはり今回の誤給付事件、社会に一石を投じるという効果面だけで見たら、皮肉にもむしろ貢献をしたとも言えるのだった。
(猫間滋)