ラッパのマークと言えば正露丸で、正露丸と言えば大幸薬品で日本人は馴染み親しんできた。その大幸薬品が希望退職を募集するというのだが、もう1つの製品の柱のクレベリンの作りすぎが原因というのだから、それではまるで「クレベリン・リストラ」とでも呼ぶべきものだろう。
「大幸薬品は5月31日に40歳から59歳までの正社員・無期雇用社員30人程度の希望退職の募集を行うとしました。知名度の高い会社で30人と言えば少ないように思われますが、社員数は単体で220人強と意外に少なく、なので社員の1割強がその対象となります。理由は明らかにクレベリンを作り過ぎたからです」(経済ジャーナリスト)
大幸薬品の製品リストを見てみると、正露丸と整腸作用薬がいくつかあるものの、その他はほぼ一般用と業務用のクレベリン一色。これを見ただけでもそもそも少ない製品に依存していることが分かるが、そのクレベリンを作り過ぎたとはどういうことか。
一口にクレベリンというと「除菌」というイメージだが、二酸化塩素を主成分とし「ウイルス除去、除菌、消臭」を謳って販売されてきた。置き型のゲルが二酸化塩素を発生させるものやスプレータイプのもの、スティック型で成分を発生させるものなどがある。それと業務用だ。
「置くだけでウイルス除去に効く」ということで、コロナ下では売れに売れた。
「日本にコロナウイルスが上陸して第1波が吹き荒れた頃の20年第1四半期決算(4〜6月)は、売上高で前年比3倍超、営業利益は13倍超という、あたかもコロナバブルという好機が同社には訪れていました。ところが21年に入ったばかりで早くも赤字に陥りました。同社ではその理由を『急激な需要増加の際に備え、手厚く商品の在庫を確保して』いたところ、『すでに店頭等での市場在庫が飽和状態にありました』と言っているので、明らかに見込み違いで作り過ぎたということでしょう」(同)
するとそこへ、今度は消費者庁に目を付けられた。クレベリンのゲルとスティックに関しては、14年にも“置くだけで空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去”とするのは合理的根拠がないとして、広告表示の「優良誤認」が指摘されていたのだが、今度は22年1月にスティック2種類とスプレー2種類にも同じ指摘がなされたのだ。
これを不服とする同社は法廷に持ち込んで争っていたが、結局は5月3日に「優良誤認」を認めることに。だがホームページで誤りは認めるものの、商品回収はしないとしたことで、ネットで冷ややかな見方がされていた。
「もともと作り過ぎた過剰在庫に困っていたところに消費者庁の措置命令がとどめを刺したということなのでしょう。直近の第1四半期決算(1〜3月)では、21年の売上高が33億円弱だったものがわずか6億2000万円ほどに落ち込んでいました」(同)
と、なんともジェットコースターのような上下動を経た末、この度の希望退職の募集発表と相成った。
(猫間滋)