「鎌倉殿の13人」暗黒プロフィール(1)「将軍・源頼朝と同格」北条義時の謎正体

 源頼朝とその妻の北条政子は、歴史の教科書には必ず出てくる有名人だが、果たして、北条義時とはいったいどんな人物だったのか。

「北条義時は一般に悪党、悪い奴というイメージがある。実は姉の北条政子の言いなりというか、完全に政子と一心同体のような関係で、いわばシスターコンプレックス」

 こう歴史家の河合敦氏は手厳しい。実の父親を追い出し、次々と邪魔者を倒す。挙句に後鳥羽上皇と朝廷に弓を引く。その「承久(じょうきゅう)の乱」で勝利して「尼将軍」といわれた政子と共に鎌倉幕府の実質的なトップに就いたダークな指導者のイメージがある、というのだ。

 しかし、そんなダークな人物を主人公に据えたのはいかなる理由からだろう。

「大河ドラマでは『江〜姫たちの戦国〜』(11年・上野樹里主演)をはじめ、『八重の桜』(13年・綾瀬はるか主演)など、有名人の近くにいた人物を主人公にして自在に動かすということをやっています。史実にとらわれず自由にドラマが構想できるからでしょう」

 と河合氏は推測する。

 昨年末に「史伝北条義時 武家政権を確立した権力者の実像」(小学館)を上梓、鎌倉歴史文化交流館の学芸員を務める山本みなみ氏は、義時の墓が頼朝の隣にあったことを知ってガゼン、義時に興味を持った。

「初代将軍の隣に一家臣だった義時の墓が建てられていたというのは、とても意味のあることだと気づいたのです。頼朝のお墓(法華堂というお堂)の隣に並んで義時のお墓があるのは、鎌倉幕府の歴史書『吾妻鏡』に書かれており、2005年の発掘調査でお堂の跡が出てきたので、義時の墓所だろうということは言われていました。ただ、誰がそこに墓を建てたのかは『吾妻鏡』には出てこない。義時は常に姉の北条政子に助けられてきた人生を送っている。『尼将軍』と言われた政子の差配とみて間違いなかろうと考えて論文を書き、それが『史伝 北条義時』につながりました。鎌倉時代150年間の中で、源氏の将軍というのは3代目の実朝が暗殺されて、結局、40年くらいで途絶えてしまいます。その後100年以上も幕府を維持しつつ発展させていったのは北条氏です。源氏の将軍から北条氏へ政治の主導権が移るターニングポイントが、義時が生きていた時代だと私は考えています」

 大河ドラマ好きとして知られるタレントの松村邦洋氏も、放映に先立って「松村邦洋『鎌倉殿の13人』を語る」(プレジデント社)を上梓し、ドラマについて熱く語っている。

「義時は神様が与えたすご腕の人物ですね。いろんな人たちの尻ぬぐいをさせられながら、我慢ができて、運のポイントがたまっているんだなと思います。文句を言いながらも、イヤなことでもやるんです。頼朝の不貞なんかも姉の政子には言わず、兄貴の宗時や政子が勝手なことをやっても、その後始末はやるという感じですね。義時は、兄貴の宗時の陰に隠れたおとなしい次男坊。お姉ちゃんの政子の後にくっついてきて、兄ちゃんの宗時が石橋山の戦いで死んでからは、成長するにつれてお姉ちゃんを表看板にして権力闘争を勝ち抜いたわけです」

 ドラマの感想を聞いてみると、

「僕がこれまでの大河ドラマでいちばん好きなのは、同じ鎌倉時代を描いた『草燃える』なんです。今回の脚本を担当している三谷幸喜さんもまた『草燃える』が好きだったようで、あの傑作の〝型〟を知り尽くしている。だからあの作品に出てこなかった人物や出来事を付け加えようとしているんでしょうね。宮沢りえさんが演じる牧の方(りく)なんか、『草燃える』とは違って政子と意外に仲がいい感じになっているのが、僕の中ではいいなあと思っています。ただ、頼朝の最初の妻で、流罪になった頼朝の監視役を命じられていた伊東祐親(いとうすけちか)の娘の八重姫があまりに近くに住んでいるのには、驚きました。北条ってあんなムーミン谷みたいな谷にいたんだって(笑)」

 その八重姫については、さらに、

「『草燃える』では出てこないし、今回のドラマでは義時がひそかに思いを寄せる人として描かれるんですが、義時の彼女ってのは、本当は大庭景親(おおばかげちか)の娘なんだけど、その部分を八重姫に重ねている感じがします。あんなに新垣結衣さん演じる八重姫が出てくるのは、『草燃える』で、草燃えなかった人たちに光を与えようという意図なんだろうなと思いましたね」

 山本氏は、

「八重姫は『曾我物語』などの物語に出てくるだけで、実在したかどうかも微妙な人ですが、今回のドラマの時代考証をされている坂井孝一先生は『曾我物語』研究の第一人者でもあるので、その要素が入っているんだと思います。私も『草燃える』はDVDで見ていたので、義時の父親の時政が、かなりのポンコツ親父として登場して、びっくりしました(笑)。義時は、野心を持って人を引っ張っていくタイプではなくて、気づいたら巻き込まれているような感じで、ドラマでもいろんな人に振り回されていますね。でも、義時のちょっとした選択や振る舞い、例えば匿っている頼朝に食事の御膳を政子に持っていかせて、そこで頼朝と政子が親しくなるきっかけが生まれたり、三浦義村に頼朝を匿っていることをちょっと話したことによって大庭景親が動いたり。表向き振り回されていながら、いろんな重要な場面のきっかけを作っているという描き方をしていて、今後の義時の何気ない選択が後の武家政権の確立にどのようにつながっていくのか楽しみです」

 頼朝の流人時代にしても、流人というと、ずっと部屋に閉じこめられていたというイメージを抱くが、

「実際は毎日、神仏にお祈りして、割と自由に恋愛もする。武士たちと狩りに出たりして、おおらかに過ごしていました。この辺りも丁寧に描かれていると感じました。政子も一般には〝悪女〟とか、じゃじゃ馬娘みたいに思われていますが、小池栄子さんのキャラもあって可愛らしい女性に描かれていますね。頼朝を尊敬し慕う姿は、頼朝の死後、頼朝の遺した幕府を守っていく尼将軍政子につながっていくんだと思います」(山本氏)

河合敦(かわい・あつし):65年、東京都生まれ。多摩大学客員教授。歴史家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。最新刊:「関所で読みとく日本史」(KAWADE夢新書)。

山本みなみ(やまもと・みなみ)89年、岡山県生まれ。京都大学大学院にて博士(人間・環境学)の学位取得。現在は鎌倉歴史文化交流館学芸員、青山学院大学非常勤講師。中世の政治史・女性史、特に鎌倉幕府や北条氏を専門としている。

松村邦洋(まつむら・くにひろ):67年、山口県生まれ。太田プロダクション所属。大河ドラマの役者のものまねを織り込んだ歴史知識を披露するなどバラエティー、ドラマ、ラジオで活躍中。YouTube「松村邦洋のタメにならないチャンネル」配信中。

*「鎌倉殿の13人」暗黒プロフィール(2)につづく

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